レイシャルメモリー 2-03


「てめえら……」
「あ、無事だった?」
 バックスはフォースの顔を見て、乾いた笑い声を上げた。
「あのな。大事な話があるって言っただろうが。邪魔するなよ」
 フォースが眉を寄せると、バックスは照れたように頭を掻く。
「いやいや、あの光。フォースが悪さしてシャイア神に殺されたのかと」
 バックスの言葉を、フォースは呆気にとられて聞いた。リディアがクスクスと笑っている。
「そ、そんなことするわけが……。大体、それじゃあ全部ぶち壊しじゃないか」
「いやぁ。だって。なぁ」
 バックスは肩をすくめると、アジルの方を向く。話を振られて焦ったのか、アジルは慌てて何度かうなずいた。
「だーもう、好きに想像してろっ」
 そう言い捨てると、フォースは勢いをつけてカーテンを閉め、リディアに向き直って短剣を差し出した。
「とりあえずこれはリディアが持ってて。リディアが手放したらこれ見よがしに消えるってのは、たぶんリディアに持っていて欲しいからだろうし」
 はい、と大きくうなずくと、リディアは短剣を受け取った。スカートに手をやったのを見て、フォースはリディアに背を向ける。
 二人だけの空間だと思うと、すぐにでも抱きしめたい気持ちが膨らんでくる。だが、バックスの照れた顔を思い出してその気持ちを抑えつけ、フォースはため息をついた。
 リディアに袖を引かれて振り返ると、リディアは恥ずかしそうにうつむく。
「話す時には外しておこうと思ってたのに。恥ずかしい」
「大切に持っていてくれて嬉しいよ」
 フォースが笑みを向けると、リディアはうつむいたまま控え目な微笑みを浮かべる。フォースはリディアの肩を抱き寄せると、頬に手を添えて口づけた。その感触は、渇きを癒す水のように身体に染み入ってくる。
 唇が離れると、見上げてくるリディアの笑みが苦笑に変わった。
「なんだか悪いことしているみたい」
 そう言うと、リディアは外を気にするように両方のカーテンに視線を走らせる。
「大事な話をしてるはずなのに……」
「これだって大事な話だよ」
 フォースが肩をすくめてリディアに笑みを向けると、リディアは嬉しそうに目を細め、フォースの肩口に頬を寄せた。フォースはリディアの髪にキスをする。
「まぁでも、馬車ばっかり見張っていられたら不用心だから開けなきゃな」
 リディアはクスクスと笑いながら、了解、とフォースを真似た敬礼をした。

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