レイシャルメモリー 2-04
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馬車は夕焼けの中、何事もなく街道を城都に向かっていた。一台の馬車を二隊分の兵士が取り囲んでいるのだ、手を出そうと思ったら、兵の数もそれなりの策も必要だろう。
道を形作っている森の密度がだんだんと下がり、畑と入れ替わっていく。宿のあるアイーダの街が近いのだ。
城都の北に位置するアイーダは、街道沿いが栄えている宿場町で、城都とヴァレスを往き来するほとんどの旅人が利用すると言っていいほど最適な場所にある。ここまで来ると道もよく整備されていて、馬車の動きもなめらかだ。
フォースは、納屋や小屋だった周りの建物に店が増えてきたところで、自分の腕を抱きかかえるようにして眠っているリディアに目を向けた。
「リディア?」
控え目な声をかけると、リディアは腕に頬ずりするように頭を振り、腕を抱く手に力を込める。
「リディア、もうすぐだよ」
二度目の呼びかけに、リディアは顔を上げた。ボーッとした表情でフォースを見上げてくる。
「起きた? もうすぐ宿に着くよ」
「寝てる……」
そう言うと、リディアは相変わらずフォースの腕を抱いたまま、肩にコツンと頭を乗せた。
「着いたらすぐ横になるといいよ」
「そうする」
リディアはコクンとうなずき、視線を落としたままあくびをする。
「リディア起きた?」
ティオがそう言いながら、屋根の上から窓をのぞき込み、逆さまに顔を出した。リディアは首を横に振ると、ティオから隠れるようにフォースに身体を寄せる。
「フォース? リディアって、いつも何か抱っこして寝てるよね」
「えっ?!」
リディアはいきなり顔を上げてフォースから離れた。腕が軽くなったのを寂しく思いながら、フォースはティオに、そうだな、と返す。ティオが、ヘヘッ、と変な笑い声をたてた。
「このあいだも、」
「ティオっ? 駄目、言わないで!」
リディアは慌てて立ち上がり、ティオの口をふさごうとした。
その時、車輪が何かを踏んだのか馬車が揺れ、フォースはバランスを崩したリディアを膝に座らせるように受け止めた。フォースは、肩口からリディアの顔をのぞき込む。
「言わないでって何を?」
上気して赤い耳元にささやくように言うと、リディアは両手で顔を覆った。
馬車の外からバックスの冷めた笑い声が聞こえてきた。フォースがそちらを見ると、バックスは下手なセリフのような笑い声をたてたまま、速度を落として後ろに下がっていく。フォースは、真っ赤なまま何も言わないリディアを隣の席に座らせると、窓から顔を出した。
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