レイシャルメモリー 2-10
「もう居ないの?」
敵兵が残っていないか探しているティオと、敵兵が飾られた木を、フォースは半笑いで交互に見上げる。
「なんか壮観だな」
思わず同意してうなずいたリディアも、笑うに笑えずに木を眺めた。
「落とさないように気をつけてね」
「大丈夫だよ。折れないとこ選んでるから」
ティオは上機嫌な笑みで、敵兵が鈴生りになった木を指差した。バックスは肩をすくめると、ティオに苦笑を向ける。
「じゃあ、合図したら一人ずつ摘んで渡してくれよな」
「えぇ? 取っちゃうの?」
ティオのムッとした声に、バックスは眉を寄せた。
「どうすんだよ。このままにしておけないだろ?」
「だって……、リディアぁ」
鼻にかかった甘えた声のティオに、リディアは怒った顔を作ってみせる。
「きちんと言うことを聞かなきゃ駄目よ」
その一言に、ティオは不機嫌に、はぁい、と返事をした。
「じゃあ、頼んだよ」
フォースはその言葉をわざとティオに向けた。元気よくうなずいて機嫌がよくなったティオの声を背中に聞きながら、フォースは通り過ぎようとしたアジルとイージスを引き留める。
「あ、隊長。薬漬けの宿ですが、イージスに任せていいでしょうか?」
アジルはフォースに敬礼を向けると、そう口を開いた。フォースがうなずくと、アジルは街をぐるっと指差す。
「今夜の宿の方は、別の者が手配に回っています」
いつものように、命令を下すまでもなく動いてくれる兵士たちに感謝しながら、フォースは、頼むよ、と返礼した。リディアは一緒に会釈をすると、日が落ちて星が広がり始めた空に視線を向ける。
「綺麗」
リディアに袖を引いて促され、フォースも空を見上げた。暗くなるにつれて星がどんどん増え、輝きを増してくる。
星の位置もいつのまにか、すっかり見慣れたメナウルのモノだ。しかも、ここまで南下すると、戦の影が感じられなくなってくる。だが何年か前の使者は、城都までのどこかで殺害されてしまっているのだ、最後まで気を抜くことはできない。
ふと、リディアがこちらを見ていることに気付いた。目が合うとリディアは柔らかく微笑み、また空に目を向ける。
この微笑みを守っていたい。ただ今日は、どちらかというと守ってもらったような気がしないでもないのだが。
フォースは照れくささに苦笑すると、もう一度リディアと同じ方向を見上げた。
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