レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部2章 拘泥の相関
3. 相克の狭間 01
アイーダを立っていくらも進まないうちに、城都の方向から進んでくる隊が見えてきた。進行を止め、馬上で様子をうかがっていたフォースの元に、隊から二騎だけ抜け出して近づいてくる。片方は上位騎士の鎧、もう片方は町人の格好をしているが、バックスの隊の兵士だ。
上位騎士の見覚えのある顔に、フォースは目を見張った。ゆったりと敬礼を向けてくるその人は、フォースの前に二位の騎士だった、現神殿警備責任者のグラントだ。
「サーディ様からのご報告を受け、陛下より巫女様、及びライザナルよりの使者の警備を仰せつかって参りました」
低い、だがよく通る声が、フォースの耳に届く。グラントは二位の騎士としてのフォースには直属の部下だが、父親よりもさらに年上の騎士だ。幾分緊張して返礼したフォースに、グラントは頬を緩めた。
「クエイド殿の嫌疑についても聞いているよ」
そう言うとグラントは隣にいる兵士を視線で指し示す。
「アイーダでのことは、彼が報告してくれた。鎌を掛けたのが当たったそうだな」
その言葉で、兵士は慌ててフォースに敬礼を向けてきた。フォースは返礼と苦笑を返す。
襲われた時点でクエイドの策略だと限定したのは、多少乱暴だったかもしれないとフォースは思う。だが、他にもそんな思いを持つ人間がいるとは、どうしても思いたくなかった。
「今頃はノルトナとシェラトの隊が邸宅を包囲している」
いつもの口調にもどったグラントに、フォースは身体の力が抜ける思いがした。小さい姿で駆け寄ってきたティオが、フォースの後ろに飛び乗る。馬は身動き一つせずにそれを受け入れた。
「あの人、フォースのお父さんと似てる」
外見で似ているところは一つも無い。ティオが言っているのは性格や思考、自分との関係など、中身のことなのだろう。元より、嘘をつくような人でないことは分かっている。フォースはティオに笑みを向けると、グラントに対して姿勢を正した。
「お元気そうでなによりです」
「ああ、君も。そこの妖精君もだ」
グラントに声をかけられ、ティオは嬉しそうに、ハイ、と返事をすると、バックスの方へと駆けていく。
後ろに控えていた隊が、フォースの思考を読んでいったティオの伝令を受け、前進を再開した。隣に並んだグラントが、フォースに問いを向ける。
「どうする? クエイド殿にも会うか?」
もちろん会えるモノなら会っておきたいとフォースは思った。少しだけでもゼインのこと、その父である人のこと、クエイド当人のことも聞きたいし、預かってきたペンタグラムが息子のモノかも問いただしたい。フォースは首を縦に振った。
「ええ。ですが、まずは陛下に親書を。その時にでも許可をいただきます」
フォースの返事に、グラントは笑みを浮かべ、大きくうなずいた。
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