レイシャルメモリー 3-04
その言葉に、フォースは深く頭を下げた。二位に任命された時、反戦の意志を示していたことも含めて認められたことを、今も変わらずに納得してくれているのだ。感謝の気持ちがさらに大きくなった。その肩にディエントの手が乗る。
「シャイア神が必要だというのも理解したが。肝心のシャイア神はどう言っているのだね?」
「ライザナルへ行くと申しております。どうかシャイア様のお言葉のままに」
リディアがディエントに向かい、そう口にした。ディエントの声が、いくらか軽くなる。
「リディアはすでに行くと決めているようだ」
そう言うとディエントはノドの奥で笑う。ハッとしたように口を覆い、頬を赤らめているリディアと、フォースは苦笑を交わした。
「シェダの所には知らせをやっておく。君も明日にでも顔を出してくれ」
ディエントの言葉に一度顔を上げ、フォースは、はい、と返事をしてから再び頭を下げる。もうよい、とフォースに頭を上げさせ、ディエントはため息をついた。
「反対する人間たちも、仇を取りたいと思う自分の気持ちも、なんとか口説かねばならんな」
悲しげな声に、フォースは黙ったまま視線を落とした。騎士になって五年に満たないが、それでも仲間の騎士も近しい兵士も、大勢失っている。彼らの思いはどこにあるのだろうと思うと気が遠くなる。ましてやディエントは国の責任者なのだ。失った人や物の数が自分の比ではないだろうことは、容易に想像がつく。
「そう、その第一人者だが」
その言葉で、フォースの脳裏にクエイドの顔がよぎった。視線を合わせたフォースに、ディエントが眉を寄せる。
「伝令から話しは聞いているよ。すでに邸宅を包囲させている。まさか、ライザナルと通じていたとは……」
ディエントの言葉尻が、珍しく濁った。ディエントにとっては重要な部下だったのだ、裏切られる悔しさや、納得できない思いで一杯だろうと思う。ゼインのことがあったせいか、フォースはその気持ちも手に取るように理解できた。
「通じていたと言っても、直接かどうかは分かりません。ドナの犯人かゼインを介してだけのことかもしれませんし」
「だが、同じ事だよ」
ディエントが寂しげに言った言葉が、フォースの胸に重たく響く。
「話しをさせていただけますでしょうか」
フォースが口にした言葉に、ディエントは何度かうなずいた。
「そうだな。君の立場で問いただすのが、クエイドも話しやすいかもしれん」
そう言うとディエントはドアに歩み寄り、二度叩いてドアを開けた。向こう側にグラントの敬礼が見える。
「フォースをクエイドのところへ連れて行ってくれ。君も話しを聞くために同席して欲しい」
「承知いたしました」
グラントの低い声が廊下に響いた。
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