レイシャルメモリー 3-05


   ***

「リディアさんを連れてこなくて正解だったな」
 クエイドの屋敷に張り付くように並んだ兵士たちを見て、グラントは苦笑した。
「これは物々しすぎる」
「ええ、危険かもしれませんし。アテミアさんにも会いたがっていましたので、神殿に預けてきてよかったです」
 フォースはグラントに笑みを向けると、すれ違いざま敬礼を向けてきた兵士に返礼を返す。
「ああ、本職ソリストの。リディアさんにとっては師に当たるのか。まぁ巫女が戻られたと言うことで、神殿は一層の警備体制を取っている、安全でもあるだろうしな」
 その言葉にうなずきながら、今は自分といる方が危険なのだとフォースは思った。だが、今とは比べものにならない、もっと危険な場所へ連れ出そうとしているのも事実だ。
 ティオと森を進むことで、人目が付かないという点ではいくらか危険は緩和される。
 ティオとファルがいればジェイストークかアルトスと連絡を取れるだろうし、マクヴァルに悟られずにマクラーンへ入ることも可能だろう。
 だが。最後にたどり着くマクヴァルの前ほど危険な場所はないのだ。人間なら誰もがマクヴァルに操られてしまう可能性がある。リディアを人に任せることはできないし、だからといって自分が斬らねばならないのは間違いない。
 黙り込んだフォースの顔を、グラントが心配げにのぞき込んでくる。
「何か問題があるのか?」
 グラントに問われ、フォースは、いいえ、と首を横に振った。グラントに話したところで、解決できる問題ではない。だが、問題無いと返したことで、いくらか吹っ切れた気がした。
 なんにしろマクヴァルを斬らない限り、神に無言で突きつけられている交換条件を満たせないのだ。そこまでやらなければ、リディアをシャイア神から解放してもらえないし、戦も再燃してしまうかもしれない。すべてが振り出しに戻ってしまう。やるしかないのだ。
 せめてあの詩にもう一行、斬った後のことが書かれていて欲しかったと、フォースは思った。実際、その後の何かをシェイド神に教えられたような気がするのだが、まだ文献に記述は見つからないし、思い出せもしないでいる。だが未来のことだけに知らない方がいいのだろうとも思い、フォースは顔に出さずに苦笑した。
 クエイドの屋敷の正面玄関が見えてくる。そこを固めている騎士が、知り合いであるノルトナとシェラトと分かり、フォースは頬を緩めた。
「取り調べ?」
 ノルトナが声を掛けてくる。
「いや。それは任せる」
 フォースはそう答えながら、律儀に向けてくる敬礼に返礼した。自分で取り調べなどしたら、今までの確執のことなどがどうしても影響してしまうだろう、それは避けなければならない。グラントに指示され、シェラトが扉をノックした。

3-06へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP