レイシャルメモリー 3-06


 少しの間を置いて、扉は内側から開かれた。クエイド本人だ。フォースを見つけると、硬い笑みを向けてくる。
「兵に包囲された時点で、君が来ると思っていた。入りたまえ」
 そう言うとクエイドは、奥に向かって歩き出した。その場に立ったまま様子をうかがっていたフォースを振り返る。
「安心したまえ。薬も兵もアレが最後だ、もう残っていない」
 クエイドは嘲笑を浮かべると、再び背を向け、歩を進めていく。フォースはグラントと視線を交わし、その後に続いた。
 まっすぐ突き当たりの部屋に入る。家具や調度品などは、ディエントが使用している部屋にあるモノよりも派手で、むしろ豪華にさえ見える。机には湯気を立てたカップが一つ置かれていて、今までそこでお茶を飲んでいたことがうかがえた。
「何か飲むかね?」
「いえ」
 クエイドは、フォースが予想していたよりも、ずいぶん落ち着いている。今までいたのだろうカップの前、椅子の方へとゆっくり歩いていく。
 フォースは鎧の内側に手を入れ、クロフォードから預かってきたペンタグラムを探った。金具から外した勢いで、鎧にぶつかって音を立てる。クエイドが振り返ったその視線の先に、フォースはペンタグラムを差し出した。
 クエイドの顔色が変わった。おぼつかない足取りでフォースの方へと戻ってくる。
「こ、これは……」
 クエイドは青い星形の石に手を差し出した。フォースはその手の上にペンタグラムを落とす。それにじっと見入った目を一瞬フォースに向けると、クエイドは右奥にあるドアへ駆け寄り、もどかしい手つきでドアの取っ手を引いた。
 中へ入っていったクエイドを追って、フォースとグラントは開け放たれたドアから中をのぞいた。大きめのベッドがあり、そこに一人の女性が寝かされている。
「分かるか? 息子のだ、私たちの息子のモノだよ」
 どうもクエイドの夫人らしい。フォースは、その人が驚きに息を飲んだような空気の動きを感じた。クエイドはベッドから伸びてきた細い手に、ペンタグラムを握らせる。
「あなた、あぁ、本当にあの子のだわ……」
 声を詰まらせ、ペンタグラムを包み込むように持つその手に、クエイドは自分の両手をかぶせた。
「まさか、またこうして手にすることができようとは」
 クエイドは、涙こそ流してはいないが、肩を細かく震わせている。
「いったい、どこにあったんです……?」
 その問いに、クエイドはハッとしたように視線を上げた。
「それは……、そこにいる騎士が持ってきてくれたんだ」

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