レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部2章 拘泥の相関
4. 愛情 01


 城に戻ったフォースが数日滞在するために通された部屋は、神殿にある女神の部屋の一つ手前、護衛が寝泊まりするための部屋だった。
 初めてリディアの護衛を引き受けた時も、リディアが降臨を受けた時も、リディアはその女神の部屋を使っていたし、護衛だった自分は当然ここに寝泊まりしていた。
 たぶんディエントが気を遣って、慣れた場所を提供してくれたのだろうとフォースは思った。部屋へ入るとフォースの身体に、何も知らなかった自分が懐かしく思えるような気持ちが広がってくる。
 いつもリディアは奥にいたのだが、今日はここにいない。神殿で本職ソリストのアテミアに会った後、ほんの少し顔を合わせただけで、実家へ帰る予定だと言っていた。
 今頃はシェダとミレーヌの元、親子水入らずで過ごしているはずなのだ。同じ城都にいるのだが、一緒にいられないのはやはり寂しい。
 明日になればまた会える。だが、こちらからリディアの家へ出向いて、シェダからリディアをライザナルへ連れて行く許しを得なくてはならない。
 いくらシャイア神が行くと言っているとしても、危険には変わりないのだ、シェダには了承しがたいだろうと思う。しかもこんな状態で、結婚の了承まで得られるわけはない。はなから反対されるのは間違いないだろう。
 フォースは身に着けていた鎧を外しながら、なんと言って話を切り出せばいいのだろうと悩んでいた。いろんなセリフが浮かんでは消える。結局は物別れに終わりそうだと思うと、そのどれもがふさわしくなく、言いづらく感じた。
 フォースは、ディエントの計らいだが、先にシェダに知らせだけが届けられたのも気に掛かっていた。ヴァレスでグレイが言っていたように、事実を知ったシェダとリディアがケンカなどしていなければいいのだが。ほんの少しの時間でも、シェダに会っておくべきだったとの後悔がある。
 だが今さらだ。久しぶりに会うのだから、悪い方だけに行くわけでもないだろうとも思う。
 鎧を外し終わり、ベッドに腰掛けた。身体は軽くなったが、気持ちは重たいままだ。
 ふと夫人の手を握りしめているクエイドの顔が、脳裏によみがえってきた。何もかもを失ってしまったとは言ったが、クエイドには夫人が残っている。
 だが、それだけでは幸せとは言えないのだと、クエイドはその姿で語っていた。幸せに過ごすためには、まわりの環境も必要なのだろう。リディアにとって父親の反対は、間違いなく不幸の一つだ。
「私はどうすればいいのだ。……か」
 クエイドの言葉を口にして、クエイドのことなど自分に分かるわけはないと思いながら、フォースは自分も結局は、いつもどうすればいいのか迷っていたような気がしていた。思いを吹っ切ろうと、ベッドに身体を投げ出し、詩の存在を思い出す。

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