レイシャルメモリー 4-03
リディアは腕の中で、フォースの胸に顔をすりつけるように首を横に振った。細い肩が震えている。
「もう家に行かなくていいわ……」
ピッタリと寄り添っているためか、フォースにはリディアの声が、自分の身体の中から響くように聞こえた。
「そんなわけにはいかないよ」
フォースはできるだけ柔らかい声で、諭すように口にする。リディアの腕に力がこもった。
「だってお父様、フォースのことをひどく言うの」
「そりゃそうだろ。リディアが悪いわけじゃないんだから、俺を言うしかない」
フォースは思わず苦笑した。リディアが抗議の表情を向けてくる。
「フォースだって悪くないわ」
その言葉にまっすぐな笑みを浮かべると、フォースはリディアの髪を撫でた。
「ああ。だから大丈夫だよ。心配いらない」
そんなことを口で言われても、不安が消えるはずもなく、リディアは悲しげに瞳を伏せた。そんな表情を見ていると、シェダがどれだけ怒っていようが、どうでもよくなってくる。ただしっかりと、リディアを守らなくてはいけないと思う。
リディアが一緒に行くと言った時にディエントが笑ったのは、たぶんこうなると予測していたからなのだろう。だが改めて考えてみると、自分がいきなり話を持ち出すよりは、先に知っていてくれた方が都合がよさそうにも思えた。
「行ったらきっと罵倒されるわ」
リディアが不安そうに眉を寄せて見上げてくる。
「かまわないよ」
「なにを言っても許してくれないかもしれない」
「シェダ様はそう簡単に折れる人じゃないんだから、しかたがないだろ」
フォースが苦笑すると、リディアは胸に顔を埋めてきた。その腕にも力がこもる。
「フォース……。お願い、嫌いにならないで」
「え?」
何を言い出すのかと、フォースは思わずリディアの顔をのぞき込んだ。リディアはその視線を避けるようにうつむく。
「だって、父のこと、負担でしょう?」
リディアが小声で言った言葉に、フォースはますますわけが分からなくなった。
「負担ってよりも、しかたがないと思ってるけど。それがなんでリディアを嫌いになるなんてことに? 関係ないだろ」
リディアは不安げにおずおずと見上げてくる。
「私、よく父に似ているって言われるの。父のことが嫌だって思ったら、もしかしたら私のことも……」
その言葉に一瞬あっけにとられてから思いきり吹き出し、フォースは笑いながらリディアを抱き寄せた。
「全然平気、まったく大丈夫だよ」
抱きすくめられたリディアは、フォースの胸に腕を突っ張り、眉を寄せている。
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