レイシャルメモリー 4-04


「笑わないで。真剣なのに」
 見上げてきた泣きそうな顔にキスをして、フォースは相変わらず笑いながら、もう一度リディアの身体を自分に縛り付けるよう、抱く腕に力を込めた。
「ゴメン、でも止まらない。可愛いよ、愛してる」
 普段聞かない言葉に驚いたのか、わずかに抵抗していたリディアは腕の中で固まったように動かなくなる。フォースは少しだけ身体を離し、リディアの上気した顔をのぞき込んだ。
「俺、別にシェダ様は嫌いじゃないよ。強敵だとは思ってるけど」
「強敵って……」
 心配げに眉を寄せたままのリディアに、フォースは笑みを向けた。リディアの逃げがちな視線と視線が交錯する。
「敵味方は立場だけの問題だよ。争うのはリディアの所有権なんだし」
「所有、権……?」
 リディアはキョトンとした顔をしてフォースを見上げてきた。その視線で自分が口にしたのは求婚の言葉と変わらないことに気付いて苦笑し、フォースはリディアの視線をまっすぐに見返す。
「反対されても、ついてきてくれるか?」
 不安げに聞いたフォースに、リディアは笑みを返してうなずく。
「はい。ついていきます。ついていくわ。フォース……」
 その頬を涙が伝い、フォースはその涙ごとリディアを抱きしめた。

   ***

「シャイア神はくまなく流伝す水であり、すべてを伝える使いの神である。その特性として他の神から存在を隠して行動できる。また、その視界内にいる戦士も同様である」
 口をブツブツと動かし、シェダは椅子にゆったりと座ったままその文書を読んだ。読み終わると眉を寄せ、対面で座っているフォースに向かい、短いため息をつく。
「それで一緒にだなどと」
 小さくつぶやかれた言葉に気付かないふりで、フォースは口を開いた。
「これから陛下の親書を持って、もう一度ライザナルへ行かねばなりません」
「まぁ、それで戦も終息に近づくというわけなのだからな。だが」
 シェダの視線が、トレイにお茶を乗せて運んできたリディアに向き、その後フォースを捉える。
「陛下から、リディアを連れて行くと聞いているが、それは本当か?」
「はい。どうかご承諾下さい」
 フォースのその言葉でシェダの眉が寄り、目が細くなった。
「それがどういうことかは分かっているのだろうね」
 もう一度、はい、と、うなずいたフォースに、シェダはフンと鼻を鳴らす。
「だったら、なぜ連れて行くなどと言えるんだ? 危険は承知しているのだろう?」

4-05へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP