レイシャルメモリー 4-05
「お父様」
わざと気を引くためかそう呼びかけると、リディアは緊張した顔でお茶をテーブルに移しだした。
「私も行かせてください」
手を動かしながらのリディアの言葉に、フォースはホッとすると同時に、昨晩リディアから聞いたように、ケンカになってしまうのではと心配が頭をもたげてくる。お茶を置き終わってまっすぐシェダを見つめたリディアに、シェダは形だけの笑みを見せた。
「お前はまだ巫女なのだよ? 危険だ、そんなことはさせられない」
「でも、シャイア様も行くとおっしゃっているの。巫女としてシャイア様のお言葉を受け入れないわけにはいかないのでしょう?」
そういったリディアの鼻先を指差すように、シェダは人差し指を突き出す。
「何かあった時、シャイア様は降臨を解けば確実に無事でいられる。だが、お前は違うんだぞ? その場に残されてしまうんだ」
シェダの言葉で、いくらか勢いの削がれたリディアは、その人差し指に眉を寄せた。
「でも私は」
「巫女ならばメナウルのためにもシャイア様のためにも危険なところへなど行くべきではない。君もそう思うだろう? そう思うはずだ」
フォースに向き直り、少しずつ大きくなるシェダの声に、フォースは一呼吸置いて口を開いた。
「私はリディアさんに一緒に来て欲しいと思っています」
「何度言えば分かるんだ。何かあったら君はどうやって責任を取るつもりだ?」
苦渋に満ちた声がフォースの耳に響く。何か起こってしまったら、責任の取りようなどない。むしろそこはシェダの気持ちに近いのだろうとフォースは思う。
「今回のことだけではなく、私にはリディアさんが必要なんです。どうかリディアさんを私にください。力の限り守ります」
頭を下げたフォースの目の前で、シェダは手を握りしめた。
「君の力などしれている! 君はシェイド神の力を敵に回しているのだぞ?」
リディアの手が、声を荒げたシェダを止めようか止めまいか、迷っているのが見て取れる。
「はい。分かっています」
フォースはそう答えながら、ケンカになったら大変なのはリディアだとグレイが言っていたことを思い出していた。自分が怒っていないことをリディアに示すためにも、さらに頭を低くする。そこにシェダの大声が降ってきた。
「ならばリディアは置いていけ。この状況で君に娘はやれん。すべて終わらせてから迎えにくればいい」
頭を上げかけると、リディアの手がシェダの袖をつかんでいるのが見える。
「私が側にいることでフォースの危険が減るのが明らかなのに、ここでただ待てと言うんですか? もう失うのを恐れながら待つのはイヤなんです」
その言葉に、シェダは困惑した顔でリディアの表情をのぞき込んだ。
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