レイシャルメモリー 4-06


「だから一緒になるなとは言っておらん。お前はここにいれば安全に過ごせるんだ」
「私にも幸せをつかむ努力をさせてください。お父様は神官長でしょう? それなのにシャイア神のおっしゃることを無視なさろうだなんて」
 シェダの表情が、サッと苦渋に満ちたモノになる。
「私はお前の親でもあるんだよ。少しでも幸せに生きて欲しいと思うから言うのだ」
「安全な場所に押し込められることが幸せとは思えません。幸せになれるのを待てだなんて。私は今幸せになりたいんです」
 リディアは、すがるような瞳でシェダに視線を注いでいる。シェダはフォースに一瞬突き刺すような目を向けてから、リディアに向き直った。
「それはその男が騎士だからか? 神の守護者だからか? それともライザナルの人間だからか? ならばそんな男に娘はやらん!!」
 その言葉尻はひどく強かった。それが売り言葉に買い言葉だと分かっていても、事実だけに辛い。リディアは、つかんでいたシェダの手を離した。
「……娘でなければいいですか?」
「なに?!」
 シェダの、フォースと同様に驚いた声が高く響いた。リディアはシェダに向かって頭を下げる。
「どうか私を勘当してください」
「リディア、お前……」
 リディアの腕を取ろうとしたシェダの手に、シャイア神の火花が散った。愕然としたようにシェダは目を見開いている。
「私はフォースとライザナルに行きます。巫女としてフォースの側にいることが今の私の幸せなんです」
「お前はその男に利用されているのだぞ!」
 シェダにいきなり指を指され、フォースはさらに何も言えなくなった。リディアは顔色を変えて声を高くする。
「ひどい! フォースはそんな人じゃないわ! お父様こそ私にくれた幸せは、戦で戦っている人たちを利用した幸せだったじゃない!」
 言い過ぎだとフォースが言う間もなく、シェダは握りしめた手を机に叩きつけた。バンッと盛大な音がする。
「もういい、勝手にしろっ! このうちから出ていけ!!」
 シェダに勘当を言い渡され、リディアはホッとしたように微笑み、深々とお辞儀をした。
「ありがとうございます。今までお世話になりました」
 顔を上げたリディアに腕を引っ張られ、フォースは立ち上がった。火花が飛ばないからか、その腕を見つめるシェダの目が悲しげに見える。
「あなた、なんて大きな声を」
 ドアの所からリディアの母ミレーヌが、シェダに声を掛けた。顔をしかめたまま通り過ぎようとするリディアを引き留めようと、肩に手を置く。
「リディア、お待ちなさい」
「放っておけ! 私たちには娘なんぞ最初からいなかったと思え!」
「あなた!」

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