レイシャルメモリー 4-08
「大切だよ。リディアに幸せになって欲しいって思いは、シェダ様も俺も同じだから分かる」
少し口を尖らせ、不満げに見上げてきたリディアに、フォースは苦笑してみせる。
「そりゃ立場は違うから、まるきり同じとは言えないけど」
リディアは何か考え込んでいるのか、うつむいて黙り込んでしまい、返事はない。
「リディアがシェダ様を大切に思うのは、今も変わらないだろ?」
フォースはリディアの声を引き出そうと疑問を向けた。リディアは眉を寄せてフォースを見上げてくる。
「そんなこと。フォースの方がずっと大切だもの。だから、もういいの。いいのよ」
言い切ろうにも、どこか引っかかるのだろう、リディアの声が小さくなった。
「本当に? 今の、シェダ様も大切だって聞こえたよ? ミレーヌさんだって大変だろうし」
フォースはリディアの顔をのぞき込んだが、目を合わせられないのかリディアの視線が逸れる。
「だけど、……、またフォースに嫌な思いをさせてしまうわ」
「そんなの、かまわないよ」
「だって」
反論しようと顔を上げたリディアの唇に、フォースは指を当てて言葉をさえぎった。
「シェダ様がなんと言おうと、どうなさろうと、リディアは俺と行く道を選んでくれた。今だって俺の側にいてくれる。だからシェダ様にどんなことを何度言われようと、俺は耐えられる」
リディアの唇が、声もなくフォースの名を形作る。見つめ合う瞳で、フォースはリディアに微笑みを向けた。
「それに、娘に触れることすらシャイア神に拒否されたんじゃ、シェダ様だってショックだったと思うよ。俺が平気なんだからなおさら」
「それは、そうかも……」
リディアは視線を落とし、寂しげに眉を寄せる。
「一つ状況を改善するごとに、許してもらいにうかがおう。リディアにはシェダ様のことで悩んで欲しくない。他のこともそうだ。俺以外のことを考えて欲しくない」
その言葉に、リディアはキョトンとした目でフォースを見つめた。フォースはその表情に苦笑する。
「無理だって分かってるよ。だけどほんの少しでも余計なことは解決したい。いつでも幸せだって思っていて欲しいんだ。思い出したら最悪なことが、リディアにあるなんて許せない」
「フォース……」
リディアはこぼれてきた涙を隠すように、胸に顔を埋めてきた。フォースは腕に力を込めながら、もう泣き虫じゃない、と言ったリディアの言葉を思い出す。
「リディア? 前言撤回しなきゃダメかな」
その意味が通じたのだろう、リディアは胸に顔を付けたまま首を横に振った。
「ダメ。嬉しい時くらい泣かせて」
確かに泣き虫ではなくなっているリディアが、嬉しいと言って泣いているのが、ひどく愛おしく感じる。フォースは震えているリディアの髪を、そっと撫でた。
「ごめんな。俺が意地でもシャイア神からリディアを取り返したいなんて思うから、こんなケンカさせてしまうんだよな」
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