レイシャルメモリー 1-03


 腹立たしさに口を開こうとしたマクヴァルを指差すと、リーシャはその指でリュートをつま弾くしぐさを見せ、口を開く。
「火に地の報謝落つ。風に地の命届かず。地の青き剣水に落つ」
 リーシャは歌いながら羽を動かし、音もなく石台へ移動すると腰を降ろした。高い音程での詩が続く。
「水に火の粉飛び、火に風の影落つ。風の意志、剣形成し、青き光放たん。その意志を以て、風の影裂かん」
 その最後の二節は、マクヴァルの目を見開かせた。
「風の意志、剣形成し、青き光放たん。その意志を以て、風の影裂かん」
 マクヴァルはノドから絞り出すような声で、詩の初めて聞いた部分を復唱した。それが何を示しているのか、すぐに頭に浮かんでくる。
 風の意志、剣形成し、青き光放たん。これは鏡に閉じこめたあの老人が言っていた戦士、すなわちレイクスのことなのだろう。そして、その意志を以て、風の影裂かん、というのは、まだ勝つとも負けるとも、運命は決められていないということだ。
 レイクスは塔で動けずにいるのだから、これからいくらでも策を講じることができる。最終的に命を奪うか、そこまではできなくても、最低限戦士としての契約の破棄を狙えばいいのだ。うかつに手を出せない今は、戦士としての特性である武器を取り上げることを考えればいい。そうすればシャイアも手を出してはこられないだろう。
「そう、その男が戦士なの。想像よりもずいぶん若いわ」
 なんとかなるかしらね、とつぶやくと、リーシャは不機嫌に顔をしかめたマクヴァルに、クスッとノドの奥で笑って見せた。そして遠景を見回すように首を巡らせ、その目をレイクスの部屋がある塔の方角で止める。
 自分の思考から、レイクスの顔なのか精神なのかを感じ取り、場所まで読んでしまっているのだろう、厄介な存在だとマクヴァルは思った。
「大変ね。邪魔者の契約神もなんとかしなきゃならないし」
 ほんの少し眉を寄せてマクヴァルに向けたリーシャの表情が、一瞬で笑い顔に変化した。
「あなた、巫女を抱きたいのね」
 リーシャは堪えられないと言った風に笑い声をたてている。マクヴァルにはひどく耳障りに聞こえた。
「お前は一体」
「さぁ? 何が言いたくって、何が望みなのかしらね?」
 リーシャは笑みの残る顔でそう言うと、羽を羽ばたかせ、マクヴァルの前に降り立った。フワリと柔らかな風が、マクヴァルの横を通りすぎる。
「巫女を探して連れてきてあげましょうか」
「なに?」

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