レイシャルメモリー 2-06
「リディアさんのように両手を広げてすべてのことを受け入れていけたら、って言ってたよね。もしかしてフォースがリディアを想う気持ちも、その中に含まれてるんだ」
サーディはユリアをまっすぐ見つめた。ユリアは一度合わせた視線を逸らし、頬を上気させて、はい、とうなずく。
「俺の気持ちも、受け入れてくれないかな」
その言葉に、ユリアは視線をそらしたまま目を見張った。
「わ、私は……」
「君がフォースを好きなのは分かってる。分かってるけど」
サーディの声を、ユリアは視線を合わせないまま聞いている。サーディは一度気持ちを落ち着けるように息をついた。
「俺にはそうやってすべてを受け入れてくれようって娘じゃないと駄目なんだ。皇帝を継がなきゃならないからってのもあるし、俺だからってのも」
「私はリディアさんのようになりたいと言っただけで、まだ、そんな……」
視線の定まらなくなったユリアの顔を、サーディはのぞき込む。
「そういう努力をしようって娘を好きになれるなんて、きっともう無い。必ず大切にする。だから、君の半分を俺に任せて欲しいんだ」
頬を上気させ、ほんの少し動いたユリアの唇を目にして、サーディは開きかけた口を閉じて、その言葉を待った。
「……、考えさせてください」
「ホントに?!」
トーンが上がった声に目を丸くして驚き、ユリアはサーディを見つめてくる。
「え……?」
「考えてくれるんだ?」
サーディは、キョトンとしたユリアの手を取り、両手で包み込んだ。
「ありがとう! 嬉しいよ、とても」
ほんの一瞬ビクッと動いてそのまま手の中にいてくれるユリアに、サーディは本気で感謝した。
***
一束の花を抱え、ジェイストークは神殿地下へと向かっていた。
アルトスが巫女拉致の軍を止めたとの知らせを聞いた時、ジェイストークは久しぶりに身体の奥にまで空気が届いた気がした。肩の荷が下りたと共に、こごっていた息をすべて吐き出し、大きく息を吸い込んだからだろうか。たった今まで息をしていなかったのかと思うほど、それは身体の隅々にまで染み渡った。
知らせを受けたちょうどその折、ジェイストークはクロフォードの側にいた。内容を察したクロフォードにいたわりの言葉をかけられ、ことの次第と同等に、内情までをも気に掛けてくれていたのだと感謝した。
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