レイシャルメモリー 3-04


 それだけの量を抱えてきたティオに、食べ終わるのを待ってもらい、少し食休みを取ってから再びマクラーンに向けて歩き出す。
 最近は、リディアと荷物を肩に乗せたティオが、フォースの前を歩いている。その方がティオは歩く気が出るらしく、フォースにとっても視界の中にリディアがいる方が安心できた。
 右手にはディーヴァの山々が連なっている。上面を覆うアイスグリーンの冠雪は美しく、いつもと変わりないストーングレイの山肌によく似合う。
 だが、普段は美しいだけのディーヴァも、裾野を歩くのは辛いモノがある。森は少し奥に入ると、枝葉を伸ばした木々が勢いよく生い茂っている。だからといって森を離れてしまうと、砂利の混ざった軟らかな土が、足を絡め取ろうとするのだ。
 そしてこのディーヴァに住むはずの神は、今リディアの中に、そしてマクヴァルの中にもいる。呪術に抑留されているシェイド神や、使命なのか感情なのかに囚われているシャイア神が、人の世アルテーリアにいい影響をもたらすはずはない。実際戦は、百二十年もの長い歳月続いているのだ。
 彼らが神だからこその弊害は、大きくリディアにのしかかっている。戦を望まないリディアに、シャイア神がつけ込んでいるとしか思えない。だからこそリディアをシャイア神から解放したい、どうしても返して欲しいのだ。
 そしてたぶんそれこそが、詩に歌われる自分の意志そのものなのだろうとフォースは思う。
「水の匂いがするよ。湖の」
 ティオが声をあげた。リディアは辺りの空気を嗅いで、まわりを見回している。
「匂い? 湖なんてことまで分かるの?」
「川の水と、湖の水は違うよ。沼も違うよ。雨だって水たまりだって井戸だって」
 ティオは得意げに、そう口にした。リディアは、凄いのね、としきりに感心している。飲める水はあるだろうか。フォースがそう思った時、ティオがフォースを振り返った。
「リディア、水浴びしたいって」
 そう、それもあるのだ。あまり間を開けては可哀想だと思う。だが、どうやって見張るのかを考えると頭が痛い。
「方向も分かるのか?」
「任せて」
 ティオはにっこり笑うと、今まで進んでいた方向を左前方に修正した。
 少し行くと、木々の間から水の反射が見えてきた。日の光を反射して、キラキラと美しく輝いている。
「もう少し行ったら川もあるよ。リディア、どっちがいい?」
 そう問いかけられ、リディアはティオに笑みを向けた。
「湖の方がいいわ」

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