レイシャルメモリー 3-06
驚いているフォースに笑みを向けると、リディアはその布を手に取った。ちょうど肩のところを持ったらしく、スカートの部分がフワッと下りていく。
「服? だな」
「ええ。持っていってあげなくちゃ」
入り江に向かいかけたリディアの身体に腕を回し、フォースはリディアを引き留めた。
「フォース?」
「何を考えているか分からないのに、側に行くなんて危険だ」
リディアは、不安げなフォースとその服を交互に見ると、フォースの顔をのぞき込む。
「フォースが行きたいの?」
「は? なっ、なに言ってんだ? お、俺は別にそんなことを言ってるんじゃ」
動揺を隠せないフォースに笑みを向けると、リディアは入り江の方に目をやった。
「あの人、困っちゃうわ」
眉を寄せたリディアに、フォースは言い聞かせるように顔を寄せる。
「だから、ここに服を置いて、俺たちが場所を変えればそれで」
「その服! 飛んじゃったの?!」
いきなり背中から聞こえてきた大声に、今度はフォースが顔をしかめた。リディアはフォースの肩越しに、コクコクとうなずいてみせる。
「拾ってくれてありがとう。持ってきてくださらない?」
「こいつじゃ駄目か?」
フォースは断られるだろうと思いつつ、ティオを指差した。
「駄目に決まってるでしょ! 怖いじゃない」
ティオは何を考えているのか、怒りもせず、ただ固まったように前方を見ている。
「じゃあ、ここに服を置いて、俺たちが消えるってのは」
「その間に飛んでっちゃったらどうするのよ。今だって飛んでっちゃったのに。冷たいわね」
冷たかろうが厳しかろうが、そんなことはどうでもよかった。
人に会わないようにわざわざ街道をさけていたのに、会った上に関わってしまったのだ。しかも、こんなところにいるのは妙だと、元から疑ってかかるように思考ができてしまっている。
相手が妖精なので、ここにいても不思議でもなんでもないとは思う。融通が利かないと思いながらも、疑う気持ちは消えようがなかった。
「だったら、飛ばないように石でも乗せ」
「冗談じゃないわ! 服が汚れちゃうじゃないのよっ!」
どこに置いてあったのか、風に飛んだのだから汚れくらい付いているだろう。いまさらだと思うと、無意識に難しい表情になる。
「だいたいね、私がその娘を襲うかもしれないだなんて、おかしいんじゃない? 見たでしょ?! 私も女よ、失礼ねっ!」
思考を読んだのだろう、相変わらず高い声が不快に響く。だったら話は簡単だとフォースは思った。自分が思ったそのままを読み取ってくれれば、申し出を受けるつもりがないことくらい、すぐに分かるだろう。
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