レイシャルメモリー 3-10


「はぁ? なんでお前に見せなきゃならないんだよ」
 そう素で返してしまってから、ティオが感情を読めてしまうことを思い出す。
「妬くなよ」
 やはりそう来たかと思いながら、フォースは不機嫌な顔をティオに向けた。
「うるさいな。ティオも見張りだ。さっきのが戻ってきたりしたら大変だぞ」
 ティオと対等なケンカになっているのが、なんだか情けない。だが、いてくれてとても助かっているのは間違いないのだ。そんな気持ちすら読んでしまうのか、ティオはにっこり笑って、分かった、と答えた。
 リディアはクスクスと笑いながら荷物からローブを取り出して羽織る。その中で着替えをするらしい。ティオはキョトンとした顔でリディアを見ている。
「隠れちゃうの?」
「当たり前だ」
 高圧的に返事をしても、意に介していないのだろう、ティオがフォースの顔をのぞき込んできた。
「ホッとした? 気が抜けた? 残念?」
「全部だ、バカ」
 隠しても無駄なことは分かっているが、どうしてここまで正直に言ってしまわなくてはならないのか。
「人って複雑だね。フォースも時々複雑だよね」
 その言葉に唖然とすると、ティオはまたおかしそうにケラケラと笑う。フォースは左手で顔の左半分を覆い、大きくため息をついた。

   ***

 ボウッと光が目に入ってくる。そこに見えているのが天井だと分かって、ジェイストークは自分がベッドに寝かされていることに気付いた。
 全身が熱く脈を打っている。身体を起こす気力も体力も何もない。ただ視線を巡らせて、神官が一人、窓の外を眺めているのが見えた。
 あの怪物に、ひどい怪我を負わされたのだ。
 神官の後ろ姿で、神殿地下でのことを思い出す。あの怪物は何だったのだろうか。あそこで見たのは、確かに父マクヴァルだったのだろうか。
 考えようとしても頭が動かない。きっともっと眠った方がいいのだろう、そうジェイストークは思った。
 目を閉じようとした時、窓の外にファルがいることに気付いた。気付いたはいいが、自分で手紙を受け取ることは、しばらくできそうにない。取ってくれと神官に頼むわけにも行かない。
 ジェイストークはため息のように息を吐くと、再び眠りに落ちていった。

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