レイシャルメモリー 4-03


 その声に、足元を見ていた視線を上げてこちらに気付いたのだろう、黒い妖精は一瞬足を止めると首らしきモノを上に向け、本能か脅しか分からないが、ノドを振るわせながら低い咆哮を上げた。その隙に感謝しながら、フォースはティオに離れているようにと指示を出して剣を抜く。
 その咆哮をいくらかノドに残したまま、黒い妖精が突進してきた。剣が届く範囲に入る一歩手前で黒い足が地を蹴る。フォースは頭上を飛び越える影を見ながら落下点まで移動し、落ちてくる妖精の下で地面と平行に剣を構えた。
 剣身が半分ほど黒い身体に当たり、潜り込んでいく感触が手に伝わってくる。フォースは剣の位置を維持し、落ちてくる妖精の身体を斬るに任せた。完全に着地した体勢の妖精から、剣を引き抜いて構え直す。
 妖精は一瞬動きを止めたが、振り返りざまに腕を振り回してきた。フォースはその腕を避けずに剣の腹と足先で受け、その勢いを利用して二人が下がった場所と妖精の間に移動した。
 表情を変えたのだろう、黒い顔が歪んだ。その背中で地面に黒い血なのか肉片なのかがボタボタと落ちて音を立てる。その不気味な音を隠すように、ノドから漏れる息が大きくなっていく。
 妖精の息が咆哮に変化した。左腕を振り上げながら、まっすぐフォースに向かってくる。フォースは妖精の視点が自分に定まっていることを幸運だと思った。
 大きく振り下ろされた左腕を避けて至近距離に潜り込む。フォースを抱え込もうとした右の腕を断つと、離れた腕が勢いで飛んだ。わずかに残った腕の切り口から黒い物体が飛散し、簡易鎧の胸を打つ。
 充満する悪臭を振り切るように、フォースは切っ先を右へと払った。剣身が浅く食い込む感触が手に伝わってくる。
「頭だ!」
 聞き覚えのある男の声が響いた。
 フォースは足を払おうと仕掛けてきた低い攻撃をとっさに蹴って飛び上がり、剣を妖精の頭に振り下ろした。着地した場所に左腕を振り回してきたが、それは自ら千切れてフォースの後ろへ飛ぶ。そのまま動きを止めた妖精と目が合った。
 かすかだが、フォースには妖精が笑ったように見えた。黒い液体が涙のように顔を伝う。その液体が落ちるのと同じように、身体全体が崩れていく。
「うわぁ?!」
 驚きと恐怖を含んだ男の声に、フォースは振り返った。黒い妖精と同じような物体が振り下ろした手に、傭兵の鎧を着けた男が引っかけられ、すぐ側まで飛ばされてくる。
「ウィン?!」
 フォースはその顔を見て思わずその名を呼んだ。ウィンはリディアの命を狙ってフォースに阻止され、仲間二人を失っている。巫女を殺しに戻るかもしれないと、ライザナルに入る時に言われた記憶が蘇り、フォースは思わず一瞬だけ振り返ってリディアの無事を確認した。リディアとティオのまわりには誰もいない。

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