レイシャルメモリー 4-04


 重たそうな足音を立てて、もう一匹が迫ってくる。突き飛ばして進もうというのか、妖精は速度を落とさない。
 フォースは振り下ろしてくる腕をかいくぐり、妖精の右足に剣身を当てた。それでも突っ切ろうという勢いに対抗して剣を握る手に力を込める。
 足はその太さに対して不気味なほど簡単に切断できた。妖精は勢い余って転倒し、石の上に黒い物体を擦りつけながら止まる。フォースはその後頭部に剣を突き立てた。妖精は崩れるように形を失っていく。
「相変わらず、だな」
 息の切れたその声に振り返ると、傭兵の鎧を着けたウィンが倒れたまま冷笑を浮かべていた。
「あの女のためなら容赦ねぇ」
 口も悪いが、顔色もひどく悪い。
「どうしてこんな所に」
 嫌味に聞こえた言葉を無視してたずねると、何か思い出したのか、ウィンはうめき声を立てながら上体を起こした。ズルズルと身体を引き摺って妖精の頭部だった部分に近づき、右手を崩れた妖精の頭部に突っ込んで何か探っている。
 思わず顔をしかめたフォースに苦々しい笑みを向けると、ウィンは妖精だったモノから手を引き抜いて、手に握っていた二つの球体をフォースに見せた。
「これさ」
 黒い液体をはじいて手のひらで光り出したそれは、多分妖精の眼球なのだろう。生きていた時そのままの色ではなく、真っ白な表面が虹色に輝いている。
 それを腰に付けた革袋にしまいこみ、ウィンはもう一体に近づいて同じように眼球を取り出した。その手が眼球を握りしめたまま、パタッと地面に落ちる。
「ウィン?!」
 駆け寄って首に触れると、血の流れはハッキリと感じられた。気を失っただけのようだ。だけと言っても、結構な距離を飛ばされているのだから怪我をしているのかもしれない。フォースはウィンの側にかがんで、身体を調べ始めた。
 いつの間にか側に来ていたティオが、リディアをフォースの側に降ろす。
「大きな外傷はないみたいだ」
 フォースは、心配げにのぞき込んでくるリディアを見上げた。リディアは安心したように微笑む。
「村に運びましょう」
「怖くないか?」
 ウィンは今でこそフォースを仇と言っているが、元々狙われたのはリディアの方だ。フォースはそれを心配したのだが、リディアは首を横に振った。
「私も歩くわ」
 その言葉にうなずくと、フォースはウィンが手にしている球体を、前の二個と同じ袋に入れた。

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