レイシャルメモリー 4-05
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妙な怪物が出るようになって旅をする者が減ったのか、それとも最初から客が少ない宿なのか。部屋は結構空いていた。ひどい匂いをさせていたので最初はしかめっつらだった宿主も、その怪物を退治してきたのだと分かったとたん、手の平を返したように丁寧になった。
借りた部屋は村の宿にしては大きな部屋で、窓からドアの側までにベッドが三台平行に置かれていた。窓際のベッドにウィンを寝かせて薬師に介抱を頼み、その隙に湯浴みをすませる。
リディアは何かあった時のため、外に出てもおかしくない部屋着に着替えていた。庶民の格好だからと用意された服を着ているのだが、リディアが着ているところを目にすると、フォースの目にはどうやっても特別に見えた。人の目にも気を付けなくてはいけないと思う。
部屋に入ると、まずティオがベッドの隅にちょこんと座っているのが目に入り、それから一番奥のベッドに寝かされたウィンと、その側の椅子に座った薬師が見えた。
「どうですか?」
リディアが心配げに声を掛けると、薬師は大きくうなずいてから振り返る。
「打撲はありましたが薬を塗っておきました。数日は痛みがあるかもしれませんが、すぐに治りますよ」
その言葉にフォースはウィンの寝顔をのぞき込んだ。顔色もすっかりよくなっているように見える。安心して頬を緩めたフォースを見て薬師は、ではこれで、と立ち上がった。リディアは丁寧なお辞儀をし、ティオは無駄に元気に手を振って薬師を送り出す。
リディアが部屋のドアを閉めた音に、フォースはため息をついた。自分を仇と思っている人間が同じ部屋にいるのだから、思い切りくつろぐわけにもいかない。
だがフォースはリディアだけは休ませたかった。歩きやすい格好だったとはいえ、道のない森の中を通ってきたのだから疲れているだろうと思う。
ティオはフォースの表情をうかがうと、ウィンを寝かせたベッドと反対側にあるベッドの下に勢いよく滑り込んだ。フォースはウィンの側を離れてリディアに歩み寄ると、向けられてくる笑顔に口づける。
「久しぶりにベッドなんだし、ゆっくり寝るといいよ」
「フォースは?」
少し心配げに聞いてくるリディアに、フォースはウィンを親指で指差して苦笑を返す。
「ウィンがいたんじゃ寝られない。ここを出てから休むことを考えるよ。だから今のうちに休んでおいて」
その言葉にリディアは笑顔でうなずいた。どちらかが起きているのが一番安心できることを理解してくれているのだ。
「このままでいいわよね」
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