レイシャルメモリー 4-06


 リディアは服のままベッドに横になった。足を隠すために薄い寝具を掛ける。フォースは椅子を持ってきて、ベッドの側に置いた。その椅子に落ち着いてベッドに目をやると、フォースの様子を見ていたリディアと視線が合う。
「おやすみ」
 フォースはもう一度リディアに口づけた。リディアは、おやすみなさい、と小声で返す。ちょうどベッドの下からティオの小さなイビキが聞こてきた。リディアは可笑しそうに微笑み、フォースの手を取って瞳を閉じる。
 リディアの手は少しひんやりとしていて、しなやかでなめらかな感覚を伝えてくる。ウィンが気付いていないかを視線の隅で確認しながら、フォースはただ黙ってリディアの手を握っていた。
 リディアの手からスッと力が抜け、眠りに落ちたのだと分かる。
 何かに集中することなく一人で起きているのは辛いモノがある。だがウィンが意識を取り戻したことに気付けないと、自分もリディアも危ないのだ。緊張感は楽に持っていられた。
 そっとリディアから手を離し、窓のある壁に付けて置いたベッドに視線を向ける。ウィンを寝かせているベッドだ。その頭部側の横にはウィンの着けていた鎧が置いてあり、持っていた武器はベッドの下、窓よりの方に隠してあった。
 そして枕の下にはウィンが大事そうに持っていた革袋をしまってある。
 フォースは、ウィンが妖精の眼球をなんのために集めているのだろうかと、想像を巡らせた。頭が弱点だと知っていたからには、何度かでも戦ったことがあるのだろう。
 眼球だけを見ると、巨大な真珠のように見えなくもない。そのままでも宝飾品として価値がありそうだ。
 フォースはリディアに視線を戻した。呼吸をするごとに、身体がゆっくりと小さく上下する。フォースはリディアの髪に触れ、そっと撫でた。
 もしもあの眼球が宝飾品だとしても、誰も目玉だと分かっていて身に着けたいとは思わないだろう。だが身に着けないまでも、何か宝飾品に使うことはあるかもしれない。
 ウィンを振り返ると、体勢を変えずに寝たままのウィンと目が合った。気が付いたのかと、安心すると同時に緊張感が増す。ウィンはケッと嘲笑するように笑った。
「誰も見てないと思って、キスしまくりやがって」
「は? 二回しか」
 そこまで言ってしまってから、フォースは慌てて口をつぐんだ。
「ほぉ、案外少ないな」
 ウィンはそう言うとノドの奥で笑う。
「まったく、こんなガキに腹を立てていなきゃならんなんて恥ずかしい」
 ウィンはこれ見よがしに大きなため息をついた。そう思ったら、こっちに気付かれる前に攻撃を仕掛ければよかったのだ。自分が隙をつかなかったことに疑問を持たれたと思ったのだろう、ウィンは視線を逸らして窓の方を向いた。

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