レイシャルメモリー 4-07


「ああ、そりゃ仇は討ちたいが、今はそんな金も暇もなくてな」
 その言葉に、フォースは思わず顔をしかめた。仇を討つなんて一人でも充分なのに、そんなに大がかりで攻めてくるつもりか。だが、本気だったなら、やはり今が好機だっただろうと思う。
「奴らの弱点を、なぜ俺に」
 フォースの言葉に、ウィンは肩をすくめて冷笑した。
「商売は楽な方がいいだろ? 大きさによっては、結構な値で売れるんだ。そのものの価値もあるが、退治料って意味もあってな」
「退治料?」
 そんな制度が出来ているほど数がいるのかという疑問に眉を寄せると、ウィンはベッドの脇に置いてある自分の鎧を指し示した。
「そのための傭兵だ。一日に二頭も見たのは初めてだが」
 初めてという言葉に、狙われているのはシャイア神だという思いが確信に変わる。顔を歪めたフォースに、ウィンは冷たい笑みを浮かべた。
「お前の後をついていけば、大金持ちになれそうだな」
「冗談じゃねぇ」
 遭遇をできるだけ避けるためにも、移動の速度を上げなくてはいけないとフォースは思った。
 自分が通った記録を残さずに手っ取り早く馬を手に入れるには、強奪するくらいしか方法がない。買い取ってしまうのも手かと思うが、乗るために慣らされた馬はそうそう売ってはいない。メナウルに戻る時に使った拠点なら、強奪できないこともないだろう。この宿からなら拠点は側にある。
 人目に付かないようにするため、休みながら進むためには馬車の方がありがたい。だが、馬車を強奪するとなると間違いなく大がかりになってしまう。とりあえずは、どうにかして馬を手に入れる方法を考えなくてはならない。
「それにしても」
 ウィンは可笑しそうに目を細め、アゴでリディアを指し示す。
「まさか女神のままだなんてな。まだやってなかったのか」
「やっ?!」
 思わず大声を出しかけて、フォースは自分の手で口をふさいだ。
「……れるわけないだろうがっ」
 そのまま続けたフォースに、ウィンはノドの奥で笑い声をたてる。
「サッサと幸せになっちまえよ。今お前が抱えている問題を解決した頃には、俺に殺されるんだからな」
「ちょうどいいじゃないか。暇つぶしに相手してやるよ」
 鼻で笑ってそう返したフォースに、ウィンは相変わらず可笑しそうに笑いながら背を向けた。
「おやすみ。せいぜい頑張って起きてろよ」
「ああ、そうするさ」

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