レイシャルメモリー 4-09


 馬をどうやって手に入れようかと悩んでいたのが馬鹿らしくなった。それにしても四頭は多すぎだ。
 ティオはこちらを向いて思考を読んだのか、立ち止まると馬に向かって何か話している。ティオが手を振ると、四頭中二頭が戻っていき、残り二頭がティオと一緒に歩いてきた。
「じゃあ、頼むね」
 ティオがそう馬に話しかけると、返事があったのか無かったのか、馬をつなぐ金具の方へと勝手に歩いていく。
「フォース、つないでって言ってるよ」
 明るい声でティオが言う。フォースは言われてハタと気付いたように、慌てて馬をつないだ。
「この人たち、仲間うちでは力が強いんだって」
「え。そ、そうなのか」
 あまりののんびりした雰囲気に、強奪どころか馬を扱っているという感覚も薄い。
「終わったら乗ってね。街道をまっすぐマクラーンの方に行けばいいんでしょ?」
「お願いね」
 リディアはニッコリ微笑むと、馬車の戸へと歩を進める。不安感にティオを振り返ると、大丈夫だよ、と間を置かずに返事をした。
 言われるまま馬車に乗り込む。何をしているのか気になって耳を澄ますと、ティオが話している声が聞こえてきた。
「うん、じゃあ、行こっか」
 その声で、馬車はゆっくり動き出す。拠点からは誰も出てくる様子はない。建物の前を通り過ぎ、少し離れてから馬車は速度を増した。
 やはり黒いシミだけで、馬車には何も問題はないようだ。もしかしたらと思い、座席の下にある戸を開けてみると、毛布までしっかり入っている。
 降ろすのを忘れたのかと毛布を引っ張り出してみると、そこから小さな紙が一枚床に落ちた。フォースはそれを拾い上げる。そこには、取りに来る者がいると伝えてある、とそれだけ書かれていた。
「フォース、これ……」
 横から紙をのぞいていたリディアが見上げてくる。フォースは笑みを返してうなずいた。
「多分、俺たち宛だ」
「もしかして、気をつかってくれたのかしら」
「でも、馬はかっぱらわなきゃならなかったわけだし。片手落ちだ」
 口にした言葉は非難と変わらないが、それでもなんだか安心して、フォースはノドの奥で笑い声を立てた。
 周りの景色が森の木で覆われ始め、どんどん緑色になってくる。フォースはもう一枚毛布を取り出してリディアに渡した。風が当たるので、二人で並んで進行方向と逆向きの席に座る。リディアは毛布を広げると、フォースも一緒に包み込んだ。
 リディアの体温がじんわりと伝わってくる。フォースは毛布の中でリディアを抱き寄せた。一人で毛布にくるまるよりも、数倍暖かいかもしれない。
 リディアの見上げてくる瞳に笑みを向け、フォースは唇を重ねようと顔を近づけた。その少し後、車輪が何か踏んだのか、馬車が跳ねるように揺れたはずみで唇と鼻がぶつかる。

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