レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部4章 夜陰の灯影
1. 謀略 01


 何度か目を覚まし、その分だけ眠りについた。傷は相変わらず痛んだが、最初に気が付いた時よりは格段によくなっている。
 ジェイストークは、変わらず窓の所にいる神官の後ろ姿に目をやった。見張られているのか心配されているのか。
 どちらかといえば見張るという意味合いの方が強いに違いないとジェイストークは思った。なにせここに来てからは、マクヴァル本人を一度も見ていないのだ。ただ、眠っている時間が長く、目にしていないだけなのかもしれないが。
 ふと神官が振り返った。目が合い、ジェイストークは力のない視線を返す。
「待っていろ」
 神官はそう言うと部屋を出て行った。何を待てと言ったのか分からないが、一人でここから動けるほどの力は出ない。待つ以外になかった。
 神官のいなくなった窓の外には、やはりファルの姿はすでに無い。自力で窓まで行ってファルを呼び、手紙を受け取るには、もう少し治癒が必要だろう。自分が起きられないことを理解して、無事にフォースの元へ戻ってくれていたらいいと思う。
 だが、何を連絡してきたのかが、ひどく気に掛かった。フォースの元にはティオという妖精がいて、動物とも少しは話が通じるはずだ。ファルが何を見たのかも、もしかしたらフォースに伝えてくれるかもしれない。でもなぜ怪我をしたかまでは、さすがに伝わらないだろう。
 あの黒い怪物の姿も、脳裏に蘇ってくる。あれが何であるかは分からないが、確実に異変が起こりつつあることも知らせたかった。
 だが、過ぎたことだ。ジェイストークは落ち着こうとゆっくりと息を吐き切った。それだけで傷が疼く。息を大きく吸い込むと、身体のあちこちに痛みが走る。ジェイストークは眉を寄せて息を潜め、その痛みをやり過ごした。やり過ごせるだけ、治癒してきているのだと実感する。
 勢いよく唐突にドアが開いた。薄く開けた視界の隅に、神官服が滑り込んでくる。
「傷はどうだ。痛むか?」
 マクヴァルの声がしたと同時に、ドアが閉まる音がした。もう一人誰かいるのだと漠然と考えながら、ジェイストークは、ええ、と小さくうなずく。
「アレは、何だったのですか」
 自分で思っていたよりも、弱々しい声が出た。視線を向けると、マクヴァルは難しい顔をする。
「それが分からないのだ。神に反応する所を見ると、妖精らしいと推測はしているのだが」
 神に、という言葉を聞いて、ジェイストークは背筋に冷たいモノが走った。
 シャイア神を襲わせるのに、これほどの適任者はいないだろう。やはり危険を承知でマクヴァルが連れてきたのだろうかという疑問が湧き上がってくる。

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