レイシャルメモリー 1-04


 マクヴァルはクロフォードに深々と一礼し、部屋を出て行った。二人分の足音が遠ざかっていく。
「そこに残ったのはテグゼルだ。お前がこんなことになった時、テグゼルとナルエスにはすべてを話してある。心配いらんよ」
 足音が聞こえなくなったところで、クロフォードはドアを指し示し、笑みを浮かべた。
 ナルエスはフォースに心酔しているから問題はない。だがテグゼルはどうだったか。人当たりがよく、それだけに普段の態度を思い起こそうとしても、無表情なアルトスよりもさらに心情が推測できない。
 だが、クロフォードの命令なのだ。テグゼルが従わないはずはないと思いたい。
「アルトスとイージスがマクラーンに向かってきている。イージスはヴァレスに潜入していたのだから、少しはレイクスの様子も聞けるだろう」
 心配させまいとして言ってくれているのだろうその言葉が、ジェイストークは嬉しかった。だが一つ、どうしても伝えなくてはならないことがある。
「陛下。申し訳ありません」
 何の謝罪か分からなかったのだろう、クロフォードが顔をのぞき込んできた。
「ファルが、……、レイクス様の鳥が、来ていたのです」
 息が続かず切れ切れになる言葉も気にならないかのように、クロフォードが身を乗り出す。
「ですが、手紙を受け取ることが、できませんでした」
 クロフォードはあからさまに残念そうな顔をしたが、その表情はすぐに苦笑に変わった。
「仕方があるまい。気にするな。もし立ち上がることができたとしても、ここにはずっと神官がいた。まさか目の前で手紙を受け取るわけにはいかないだろう」
 ありがとうございます、とジェイストークはできる限り頭を下げた。
「もしかしたら、またその鳥を寄こしてくれるかもしれんな。ここは軍部が引き受けるとマクヴァルに命令をくだそう」
「そうしていただければ、ありがたいです」
 クロフォードはうなずくと、窓の外、神殿の方角に視線を向ける。
「本当なら神殿の警備も任せて欲しいところだが。任せてくれないところを見ると、怪物のような妖精というのもマクヴァルの術策かもしれん」
「私もそう思います」
 多分まだ回復していない自分を気遣って、クロフォードは全部を口にしてくれているのだろうとジェイストークは思った。クロフォードの表情は、困惑しているようでもあるが、変わらず優しいままだ。
「神殿に何かがあるなら、警備すら事を荒立てることになってしまう。あの怪物の目的が何なのかも分からない。どうにかして探りを入れたいが、言葉も通じないようだし。難しいな」

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