レイシャルメモリー 1-05


「はい」
 甘えていると思いながらも、それだけ答えたジェイストークを、クロフォードは心配げにのぞき込んでくる。
「まずは傷を癒すことだけを考えてくれ。怪物がマクヴァルのせいだとしても、動きがあるのはまだ先のはずだ。自分が襲われているようでは、話しにならんだろうからな」
 はい、と返事をしつつ、ジェイストークはフォースの行動に思いを巡らせた。ファルの手紙を受け取れなかったのは残念だが、ヴァレスに潜入していたというイージスが戻ってくるのだ、何か情報がつかめるかもしれない。
 ジェイストークの、少しでも早くフォースがマクラーンに来て欲しいとの思いは、いつの間にか祈りに変わっていた。

   ***

 木の枝を蹴り、透き通った羽を動かす。音も風も立てないように、完全に夜と同化する。リーシャは森の木の上部から、夜更けの街道を行く一台の馬車を見つめ、声に出してため息をついた。
「やっと追いついた。案外早いじゃない」
 御者台にいるのはフォースだ。側にいたティオもリディアごと馬車の中なのだろう。その馬車のせいで神官が召喚した妖精が追いつけていない。
 ティオが馬の都合に合わせてこまめに休みを取っているため移動が早く、馬も疲れが最小限ですんでいて元気なのだ。馬車などどうやって調達したのか。リーシャはため息をついた。
「あの神官、露見を怖れたりするから」
 マクヴァルが街道を避けろと命令していなければ、今頃はあの馬車に群がっていたかもしれない。バレたところで、神の力を使えばいいのだと思う
「だいたい何よ。シャイア神にとって一番危険なの、あんたじゃないの」
 人の心情まで見ることのできるリーシャには、フォースとリディアが互いに持っている恋愛感情が一目瞭然だった。この男は揺るぎない幸せを女に送りたいのだ。女はその想いごと男を支えたいのだ。
 やっていることは間違いなく戦士の行動なのだが、戦士だということすらフォースの頭には残っていない。
 ふと脳裏に一人の男の顔が浮かんだ。歳をとったしわがれた声で何度も聞かされた、スマン、という言葉が耳に響く気がする。思わず両手で抱えるように、じくじくと痛んだ胸を抱いた。
 長く生きても百年に満たない人間を相手にするのはバカバカしいと思う。頭に残るその男も、あの戦士もだ。だが、過ぎてしまったことは仕方がないし、今シェイド神を解放されてしうのは迷惑なのだ、どうしても阻止したい。

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