レイシャルメモリー 1-07
心情をのぞくと、確かにフォースの言う通り、あまり打撃にはなっていないのだと分かる。だが、シャイア神がシェイド神の力を受けるまでの一瞬は、結構な隙があった。その一瞬を狙えば、付け入ることができるかもしれない。
ふとリディアが上を見上げた。リーシャが木々の間に隠れたあたりに視線を巡らせる。リーシャは動悸を抑えながら、見つかるわけがないと信じて息を潜めた。
「リディア?」
「誰かがいたような気がしたのだけど」
その言葉でフォースも近辺を探るように見まわす。
「何か動物だったのかしら。人がいるわけないわよね」
ため息をついたリディアに、フォースの注意が向く。
リディアは妖精の存在を感じることができるのかもしれない。まれにそういう人間がいると、長老から聞いたことがある。なんにしてもシャイア神が選んだ巫女なのだ。リーシャは緊張を解かず、息を詰めたまま様子をうかがった。
「イヤだわ。すぐ心配になったり不安になったり、悪い方へ悪い方へと考えてしまって」
「問題無い。ってより、むしろ役に立つよ。危機を感じる能力みたいなものだ。俺には無いし」
フォースはリディアの恐怖心すら負担に思わせたくないらしい。その言葉に安心したのか、リディアが微笑みを浮かべる。
フォースはリディアを落ち込ませないようにと言ったつもりらしいが、実は当たっているのだ。リーシャは自分がここにいることがフォースにばれていないと分かり、ホッと胸をなで下ろした。
それにしても、リディアに居場所が知れてしまうのは厄介だ。リーシャは風に流されるように少しずつ場所を変えながら、二人に視線を向ける。
「寒くないか? マクラーンに近づくほど寒くなる。気を付けないと体調を崩すよ」
その言葉に、リディアはフォースに身体を寄せ、その肩に頭を乗せた。
「フォース、あったかい」
フォースはリディアの肩に腕を回して抱き寄せ、そのまま唇を合わせる。
人間の男はいつでもずいぶん性急なモノなのかとリーシャは思った。いや、違う。女もそうだ。リディアは余すところ無くしっかり受け入れ、受け止めている。
妖精は百年、二百年と、長い時間をかけて、ゆっくりを愛を育んでいく。寿命の長さから考えると、自分の種族はそれでいいのだと思う。だが人間は短命だから、急ぐしかないのかもしれない。
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