レイシャルメモリー 1-08


 最初から合わないモノだったのだ。そう思うと、またリーシャの胸が痛んだ。差し出す勇気が持てず、無理矢理奪われた。恨んだけれど、でも好きだった。好きだから、謝られるのが辛かった。そのくらいなら胸をはってお前は自分のモノだと言い切ってくれたらよかったのに。
 そしてその気持ちを、リーシャはまだ引き摺ったままでいた。まだその時から時間はさほど経っていない。感情のなだらかさと同じで、忘れることは妖精には難しいのだと思う。
 あの人はきっと、もう忘れている。どうやって過ごしたかだけじゃなく、二人が会ったということすら。人間なのだから、きっとなおさら。
「二人で住むのは小さな家がいいわ。振り返ったらいつでもそこにいる、くらいの」
「狭すぎだろ」
 馬車の二人は、相変わらずリーシャにとってどうでもいいことを話し続けている。
「だって、掃除するのも大変よ?」
「そこか。そりゃまぁ、そうかもしれないけど。リディアは何もしなくていいよ」
 フォースの言葉に、リディアは寂しげな顔をした。フォースは慌てて言葉をつなぐ。
「あ、いや、してもいいんだけど。ただ、側にいて欲しくて」
 リディアはフォースに目を丸くした視線を送ってから、軽い笑い声をたてて頭をフォースの肩に乗せた。
 リーシャがのぞいたフォースの感情は、自分が愛した人間のモノと酷似している。だが、間違いなく一つだけ違う所がある。
「どうしてあの人みたいに……」
 思わず疑問が口をついた。二人に届かないうちに、風が声をさらっていく。
 リディアの心も身体も、すべてを守ろうとしているから手を出さずにいるのだ。戦士だからシャイア神を守るという使命とは違い、これからの環境までをも見据えて。だがリディアの気持ちは、あまり自分と違うようには見えない。
 リーシャは、自分が欲しかった想いがフォースにあることが、そしてその想いをリディアが受けていることが、ひどく癪に障った。
 リディアも自分と同じ目に合えばいいと思う。そうしたら人間同士の関係がどう変わるか、知ることができる。もちろん、一つの例としてだけなのだけれども。
 遊んでいる場合ではない。そう嘲笑してから目を見張り、リーシャは首を横に振った。
「そうか。そうよね」
 フォースの戦意を削ぐには、それが一番かもしれない。リディアを傷付け、シャイア神を失うのだ。自尊心もさぞや傷付くことだろうし、そうなってしまうと簡単に倒せそうな気がする。
「あのおじさんは巫女を抱けなくて残念だろうけど。シャイア神の抜け殻ってことで、あの女を連れていってあげようかしらね」
 しかも、シャイア神が降臨を解いて、この世界からいなくなるのだ。そうなれば自分の目的も半分果たすことになるのだから、これほど効率のいいことはない。

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