レイシャルメモリー 1-09
「楽にしてあげる」
押さえ込んだ感情を自由にすることくらい簡単な術はない。動力はフォースの感情に存在するのだから。リーシャは術を発動しようと胸に当てた手をフォースの方へと差し出した。
ふと、リーシャは妖精が近づいてくる気配を感じた。ティオが食物を集めて帰ってきたのだろう。手を下ろしてチッと舌打ちすると、リーシャはティオに感づかれないように馬車から距離をとった。ティオが木々の間から姿を現し、手を振ったリディアに笑顔で答える。
「おかえりなさい」
「もっと遅くてもよかったのに」
フォースの言葉に、ティオがケラケラと可笑しそうに笑った。
リーシャはこの妖精の存在をすっかり忘れていた。だが、食事なら日に何度かとるだろう。焦ることはない、ティオが遠くまで食べ物を採りに行っている間に仕掛ければいいのだ。
「ホントに遅くていいのかしらね?」
リーシャもティオにつられるように小さな笑い声をたてた。
***
机の上、いつもの場所には、数十冊の本が山を作っている。神殿地下の書庫からシャイア神が選んだ本だ。グレイは、その中からさらに重要度が高いとして、別に選ばれた本を手にしている。
「よかったな! リディアさんに選んでおいてもらって」
いくらか興奮したのか、サーディが上擦った声を出した。また知りたかった事実が書かれているのを見つけたのだから、嬉しくなっても当たり前だとグレイは思う。だが逆に気持ちが妙に冷えているのも感じていた。サーディはグレイの隣から、再び本をのぞき込む。
「やっぱりあの短剣が光っている時に、術師を傷つけろってことなんだな」
「でも、フォースが短剣を持ったら光が消えてしまうらしいよ?」
苦笑したグレイを見て、サーディの顔が引きつった。
「何で」
「さぁ?」
ウッと言葉に詰まったサーディを、グレイは何も言えずに見ていた。
「何見つめ合ってるのよ」
廊下から部屋へ入ってきたスティアがサーディに向かって言った。サーディはため息をついてからスティアに視線を向ける。
「いや、短剣が光っている時に斬れって書いてある本が見つかってね」
「聞こえてた」
スティアの返事に、サーディは不機嫌に眉を寄せた。
「だから。見つめ合ってるんじゃなくて悩んでるんだって」
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