レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部4章 夜陰の灯影
2. 決断 01


 マクラーン城に入り、アルトスはイージスと共にクロフォードの自室に向かっていた。いつもよりも靴音が耳に響く。後ろから付いてくるイージスの歩調も、ハッキリと分かる。
 この静けさも、あの黒い怪物のせいなのだろうとアルトスは思った。いつもなら着飾った女性達が石造りの城内に花を添えている。だが今は家に閉じこもっているのだろう、時折聞こえるのは騎士が立てる鎧の音だけだ。
 街には女性どころか、人の姿も数えるほどしか見あたらなかった。マクラーンに近づくほど深刻になっているのは、怪物が北から発生しているのか、それともマクラーンからなのか。
 ジェイストークの怪我も気になる。最後の連絡では、ずいぶん回復しているとのことだったが、顔を見るまでは安心できない。クロフォードとの話しがすんだら、すぐにでも会いに行こうとアルトスは思っていた。
「すでに入られたと、お伝えしようと思います」
 後ろからイージスが声をかけてきた。いや、イージス自身に対する確認だったのかもしれない。アルトスは返事を返さぬまま歩を進める。
 イージスは、フォースがライザナルに入ったところを直に見ずに戻っている。だが、フォースが入ると言ったのなら、入っていると思いたい。
 事実だけを考えても、拠点で起こった馬の盗難は、妖精でも使わない限り無理なモノだった。現在ライザナルには妖精がいないことを考えると、イージスから報告を受けていたティオという妖精の仕業に違いないと思う。
 そして、放置した馬車と共に消えているのだから、バカ正直に巫女を連れてライザナルにいるのだろう。
 そう思うと安心ではあるが、不安でもある。妖精がいるとはいえ、一人で巫女を守りきれるだろうか。いくら戦士といっても人間だ。何日も寝ずにいられるわけがないし、食べずにいられるわけでもない。
 だからといって、手を出せる部類のモノでもない。種族の問題なのだろうし、フォースの手にすべてが握られている。
 だがそれが神の運命、すなわちライザナルの、ひいては世界すべての様態にかかってくるのだ。当人はそのことを微塵も感じてはいないようだが。
 騎士二人に守られたクロフォードの部屋のドアが見えてきて、アルトスはため息をつきたい気持ちを飲み込んだ。
 まっすぐドアへと進み、ノックをする。はい、とレクタードの声がして、中からドアが開かれた。
「待っていたよ。入って」
 レクタードは、アルトスとイージスの顔を確認すると、ドアを大きく開いて二人を通した。真正面に置かれた椅子に落ち着いているクロフォードに一礼すると、アルトスはイージスの先に立って入室する。

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