レイシャルメモリー 2-03
ありがとうございます、と、アルトスはもう一度頭を下げた。立ち上がり、部屋を出るアルトスに、レクタードが手を振った。だが、見送る目にその余裕は感じられなかった。
ドアを閉めると、アルトスはすぐにジェイストークのいる部屋へと向かった。知らず知らずのうちに、急ぎ足になる。そう離れていない場所が、ひどく遠く感じた。
ドアの前にはテグゼルがいた。敬礼を交わすと、気を落ち着ける間もなくノックする。
「どうぞ」
すぐに帰ってきた声で、思わずテグゼルに視線を向けると、テグゼルは笑みを浮かべてドアを開けた。ベッドに上体を起こしているジェイストークが、やぁ、と手をあげる。
「大丈夫なのか?」
そう言いつつ部屋へ入る。後ろでテグゼルがドアを閉める音がした。
「心配かけたね」
ジェイストークは幾分恥ずかしげに苦笑する。
「まさか俺があの人を助けるだなんて。驚いたよ」
人格が入れ替わっているとしても、ジェイストークはマクヴァルを親だと思っていることに違いはない。たぶん自然なことなのだろうとアルトスは思う。
「生きていてくれて、よかった」
その言葉に目を見開くと、ジェイストークはノドの奥で笑い声をたてた。
「それより、窓の外」
ジェイストークが指差した先の窓に、アルトスは目をやった。木の枝に一羽の鳥がとまっている。
「あれは」
一目で分かった。フォースが飼っていた鳥だ。
「合図、覚えてるか?」
呼び入れろということなのだろう。アルトスは窓を開けると、まわりに人がいないか確認し、フォースの手の動きを真似してファルを部屋へ入れた。
ファルはアルトスの側を通り過ぎ、ベッドの端にとまる。アルトスは開いた窓を背にしてジェイストークの行動を見つめた。
「ファル、持ってきたか?」
その問いに、ファルは足が見えやすいように伸ばして寄こす。そこに付けられている手紙をファルに触れないように抜き取り、ジェイストークはそっと広げた。
「……、ギデナを越えられたらしい」
「ああ」
知っていたことに驚いたのか、アルトスの返事にチラッとだけ笑みを向けると、ジェイストークは再び手紙に視線を落とした。
「相変わらずシェイド神の力を使った攻撃も続いているそうだ」
その言葉に、アルトスは思わず不機嫌に眼を細めた。やはり危険だろうがなんだろうが、シャイア神は側にいないと駄目なのだ。
「マクラーンに入ったら、知らせをくださるそうだよ。先に侵入経路を決めておいた方がいいな」
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