レイシャルメモリー 2-04


 ジェイストークが向けてくる視線に、アルトスはうなずいて見せた。
「私は急ぎ北へ行ってみようと思う」
「無駄だよ」
 静かに帰ってきた言葉に、アルトスは訝しさを言葉にする。
「だが、怪物の発生源がどこだか見当を付けられる」
 その言葉に、ジェイストークが自嘲するように笑った。
「神殿だ」
「なっ?!」
「神殿なんだ。でないと、どうしてあの時、地下墓地にマクヴァルがいたのか説明がつかない」
 抑揚の失われた言葉に、アルトスは憂愁に閉ざされかけたジェイストークの思いを感じた。ジェイストークは奮い立たせるように首を横に振ると、アルトスと視線を合わせてくる。
「神殿に何かある。それもレイクス様が動いたときの予防線なんだろう」
 そうだとしたら。いや、そうだとしても。最後に行かねばならないのは神殿だろう。避けて通るわけにはいかない。
「だが今の状態では、神殿とは当たらず障らずという状況でなくてはな。神官以外の人間がいれば、少しは歯止めにもなるだろうが」
アルトスの言葉を聞いて、ジェイストークはため息を一つつく。
「それが。私の代わりにと、エレン様の墓所にレクタード様が日参しておられるんだ」
 ジェイストークが言った言葉に、アルトスは言葉を失った。
「お止めしたのだが。こんなことくらいしかできないとおっしゃって、聞いてくださらない」
 レクタードも、一度言いだしたら聞かない性格だ。もし自分が止めても、やめないだろうと思う。とにかく、一刻も早いフォースの到着を願うしかない。それまでレクタードが神殿とのゴタゴタに巻き込まれたりしないように、気を付けなくてはならない。
「せめて手落ちの無いように入城していただくための策を立てなくてはな。今ならこの鳥で手順を伝えることもできる」
 アルトスの言葉に、ジェイストークは力の無い笑みを浮かべた。

   ***

 剣身が怪物の黒い巨体にめり込んでいく。実際は斬っているのだが、薄闇の中、皮膚を覆う液体が一瞬で傷を隠すため、フォースの目には斬っているように見えない。
 腰の辺りを斬られて平衡感覚を失い、怪物は前につんのめった。だが地面に手を付きながらも、もう片方の腕を振り回して攻撃してくる。
 フォースは身体を引いてその腕を見送ると、怪物の肩口に飛び込んで腕を切断した。腕で身体を支えたつもりで、肝心の腕がなかった怪物は、勢いよく地面にひっくり返る。転がった身体を避けつつ、フォースは怪物の頭に剣を突き立てた。

2-05へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP