レイシャルメモリー 2-05
意識の無いもう片方の手が、振り払おうとした惰性で身体にぶつかってくる。避ける暇無く払い飛ばされ、道路脇の木に背中から衝突した。
フォースは、道の真ん中で怪物が形を失っていくのを見ながら、その場で背中の痛みに耐えていた。心配げな視線を送ってくるリディアに気付き、フォースは苦笑を浮かべ手を振って見せる。
街道を通ると、大きな神殿のある街を抜けなくてはならなくなるので迂回した。道が細く森に近いことが怪物との遭遇率を上げている要因なのかもしれない。それが原因なら、街を越えれば街道に戻る予定なので支障はない。
だが、シェイド神の力を使ったマクヴァルの攻撃を、シャイア神が受け止めているからだとしたら一大事だ。そのたびに居場所を感づかれ、怪物を呼び寄せてしまうことになる。
増えてしまった怪物に閉口しながらも、フォースとリディア、そしてティオは、確実にマクラーンに近づいていた。
「腹減ったよ、フォース」
馬車の中からティオが顔を出す。
「ちょっと待て」
息切れの残る声でそう答えると、フォースは剣を一振りして黒い物体を落とし、鞘に戻しながら馬車に戻るためにゆっくりと足を踏み出した。
「怪物ばっかりで遠くまで取りに行けないから、たくさん集まらないんだもん」
頬を膨らませたティオがキョロキョロとまわりを見回し、南方に視線を定めた。視線がきつくなる。
「フォース? 誰かこっちに来る。二人増えた」
ティオの視線につられ、フォースは同じ方向を見やった。
「増えた?」
増えたということは、今まで一人いたということだ。ティオは一言もその話しをしていなかったが。
「三人、妖精だよ。怪物じゃないみたい。分かりやすい敵意を持ってる」
だが、言った言わないという話しどころでは無さそうだ。フォースは鞘に収めたばかりの剣を、もう一度抜いた。
「このあいだの奴か?」
「ええと、前のはそうだったけど、いなくなったみたい」
湖でリディアを襲った妖精が三人を呼んだのか、それとも避けて離れたのか。とにかく今は、向かってくる三人をなんとかしなくてはいけない。
「リディアに手を出させるな」
「うん、分かってる。リディアはここね」
ティオに言われ、リディアは馬車の中で体勢を低くした。
気配と緊張感が大きく膨れ上がる。目の前の空気がいきなりぶれて、フォースは右に移動しながらその真ん中に剣を突き入れた。フォースの顔の左横を剣身が通り過ぎる感覚と共に、うわっ、という焦りの声が発せられ、若く見える妖精が切っ先に姿を現す。
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