レイシャルメモリー 2-06


 金髪を振り乱して驚愕した顔のまま、その妖精はさらに攻撃を仕掛けてきた。突きに出た細い剣を剣身で叩いて回避しながら身体を寄せ、フォースは妖精の腹の上部に剣の柄を叩き込む。
 くずおれる身体をすり抜けるように前に出ると、フォースは剣を一時左に持ち変え、馬車に向かう二人に向けて短剣を投げた。短剣は二人の間をかすめ、馬車の後部に突き立つ。
 妖精が一瞬ひるんだ隙に二人と距離を詰め、擦るほどすぐ後ろで剣を薙いだ。その攻撃を無視できず、片方が振り向く。その顔は、ちょうど義父であるルーフィスと同じくらいの歳に見える。もう一人の若そうな妖精と馬車との間に立ちふさがるように、ティオが巨大化した。
「なんの用だ!」
 何度も突き出される細い切っ先をかわしながら、フォースは叫んだ。余計な肉のない白い顔に苦渋の表情を浮かべ、妖精はさらに突きを出してくる。
「神官を出せ!」
 その言葉の違和感に、フォースは攻撃を剣で受けつつ眉を寄せた。シャイア神をシェイド神と勘違いしている可能性がある。だが、まさかシャイア神だと名乗りを上げるわけにもいかない。
「これ以上の召喚は許さぬっ」
 言葉と共にまっすぐ突き出されてくる細い剣身に剣身をぶつけて方向を変え、フォースは攻撃を回避する。
「召喚?」
「その剣で斬っただろう!」
 再び目の前に迫る切っ先を右に見送りながら、フォースは一歩踏み込んだ。
「あの怪物かっ」
 細い剣身を生かした突きだけで戦うには、短すぎて辛い間だ。思った通り、距離を取ろうと妖精は身体を引いた。
 不用意に浮いた細い剣身を狙い、フォースは剣を思い切り振り下ろした。ギンッと鈍い音がして、細い剣身が二つに折れる。
 驚愕に歪んだ顔に、フォースは切っ先を突きつけた。その後ろで、ティオがもう一人の妖精の剣をその手ごと掴むのが見える。
 その時、フォースの後ろで真っ白な光が膨れ上がった。ティオが顔を背け、ぶら下がった妖精は目を閉じている。フォースは左目を閉じ、右目を細く開けた状態で後ろをうかがった。最初に伸した妖精が気付いて、目をくらませる術を発動したらしい。
「戦士?!」
 光によって紺色に見えたのだろう、眼前の妖精がフォースの目を見て驚きの声をあげた。その声にまわりの光が急激に引いていく。
「ならば、ここにおられるのはシャイア神か!」
 術を発動した妖精の声が後ろから響く。元の薄闇に戻ったのを見て両目を開けると、フォースは妖精を正面から見据えた。

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