レイシャルメモリー 2-08


 妖精が語尾を言いづらそうに濁らせ、意を決したように言葉をつなぐ。
「身体は崩れ、思考も壊れてしまう。あなたの言う怪物の正体は、私たちの仲間の変わり果てた姿なのです」
 ティオから妖精だと聞いて、ある程度予感はしていた。それでもその経緯に、リディアの顔が悲痛な表情になる。フォースは支えるように、手をリディアの背中に添えた。
「何としてもやめさせたい。私たちは、術の力が強い者を選び、その術と召喚の力も利用して、こちらへ来たのです」
 だが、先にマクヴァルを暗殺されてしまっては、シェイド神の解放ができなくなってしまう。そう思い、フォースが眉を寄せると、ええ、と、妖精はうなずいた。
「戦士が存在しているとは知らず。けして邪魔をするつもりではなかったのですが」
 マクヴァルを斬るのを任せてくれるつもりなのだろう。そう思うと、フォースは気持ちが幾分軽くなった。リディアはフォースと視線を合わせると、妖精に顔を向ける。
「召喚された方たちを、元に戻す方法はあるのですか?」
 その問いに大きく、だが静かに息をつくと、妖精は視線を落とした。
「いえ、無いのです。犠牲を一人でも少なくするためにも、早いうちにその影を払拭していただきたく……」
 影という表現をしたことで、フォースは妖精もあの詩やその内容を知っているのだと理解した。その詩にある、その意志を以て風の影裂かん、という部分が頭に蘇ってくる。
 それを思ったとき、間違いなくその後ろにジェイストークの存在が浮かぶ。その立場だと、親を斬る手助けをしてしまうことになるのだ、辛い思いをさせてしまうに違いない。
 だが、誰に辛い思いをさせても自分が斬らなくてはならない。生きていて欲しいだろうが、むしろあのままで世界を意のままに操られる方が、ジェイストークにとっては辛いだろう。
 親子だろうが恋人だろうが、側にいるだけでは何の解決にもならない。クエイドとゼインがそれを教えてくれた。
「神のいない世界が不安ですか」
 ハッとして、フォースはその言葉を見つめた。
 神の庇護が無くなれば、当然色々な異変が起こってくるだろう。神のいない世界は、誰も経験したことのない厳しいモノになると予想できる。
 そう思うと、マクヴァルの言い分も理解できないわけではない。しかも、それを人の世アルテーリアに強いるのはフォース自身なのだ。
「やはり迷っているのですね」
 妖精はそう言うと、悲痛な面持ちで深くうなずく。不安げに寄り添ってくるリディアに、フォースはわずかな苦笑を向け、再び口を開く妖精に目をやった。

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