レイシャルメモリー 2-09


「分かります。ヴェーナに神がいなければ、なにも産まれないし、なにも育たない。ご加護いただけないと、私たちは生きていけないのですから」
 加護、という言葉が耳に付く。だがフォースには、加護とは少し違う気がした。それで生きていけないとまで言う妖精の存在が、赤ん坊のようにさえ感じる。
「召喚を繰り返すなら、ヴェーナのために、私は生まれ変わる影を斬り続けなくてはならない」
 確かに神はアルテーリアとヴェーナにとって親のような存在なのだろう。それならば、神は単に人の成長を望んでいるだけかもしれない。
「人は、誰もが親の庇護から離れて成長していく」
 自分に言い聞かせるように言ったフォースに、妖精は目を見張った。その見開かれた目に、フォースは苦笑を向ける。
「俺はまだヒヨッコだけど。それに、この地は元々人を育てた地だ。簡単ではないだろうが、やっていけないことはないはずだ」
 アルテーリアのこの変化が成長ならば、神の行動を受け入れるのではなく、自分から足を踏み出さなくてはならない。
 始めて剣を手にしたその時のように。騎士になったその日のように。リディアを一生守り抜くと決めた、その決断にかけて。
 迷っている暇なんて無いのだ。いつでもそうだった。その迷いは逆に自身を傷付ける。
「斬って、……くれるのか?」
 妖精は呆けたような顔を向けてきた。フォースは妖精にまっすぐな視線を返す。
「不安は変わりません。でも、やらなければならないことだとは分かります。迷いは、もうありません」
 フォースの言葉に、妖精は気が抜けたように息をついた。
「その人間からシェイド神を取り返せなくても、私はあなたを責めたりはできません。ですが、人の世アルテーリアがどんな世か、判断はその結果にかかっています」
 その言葉に、フォースは冷たい笑みを浮かべる。
「元々アルテーリアがどうとか考えていないんだ、どう判断されてもかまわない。でも、戦果がないと意味がないのは、どちらも一緒だ」
 フォースは微笑みを浮かべたリディアと視線を合わせた。
 リディアをシャイア神から取り返したい、その想いだけでここまできた。マクヴァルを斬ればその想いはほとんど達成される。
 先には神のいなくなった世界が残るのだ、当然苦難もあるだろう。でもそれも今までやってきたように、ただリディアを守っていけばいいのだ。
「戦士があなたのような方だとは、思ってもみませんでした」
 妖精の顔が力なく笑う。妖精は戦士のことを、信念を持って神を、そしてアルテーリアを守ろうとする人間に違いないと考えていたのだろう。

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