レイシャルメモリー 2-10
確かに、詩を聞いただけなら自分でもそう思うだろうし、その方が格好も付く。情けないことなのかもしれない。
だが、戦士としての自分も、ただ普通の人間だったというだけだ。
恋人とか友人とか親とか同僚とか。たまたま会話を交わした人、すれ違う人々。手を伸ばして届く範囲の人が幸せであって欲しいと願う。そして自分も幸せを掴みたいと思う。
その方がずっと切実なのだ。それは間違いなく自分の力になる。そして、生きている限り、手はどこまでも届くようになっていくだろう。
黙って見ていた妖精の表情が、どんどん引き締まっていく。心が読めるわけではないが、フォースには妖精の気持ちも手に取るように理解できた。
妖精は、ヴェーナのために影を斬り続けると言ったのだ。たぶんそれが上に立つ者としての決意であり、あるべき姿なのだ。
自分が皇帝になれないと感じるのは、すべての人々を同じに見る度量には、まだまだ広さが足りないと、自分で分かっていたということなのだろう。
「ですが。あなたの想いは強い。しかも留まらずに広がっている。私たちすら、その手に届くほどに」
真面目な顔で、妖精が語りかけてきた。
「広がる、じゃ駄目なんだ。それに最初から広く持ってる弟がいる。どちらが適任かは一目瞭然だろう」
フォースが向けた視線に、妖精は難しげな顔でうなずく。同じように、きっとクロフォードも理解してくれるだろうとフォースは思った。
「ねぇ、三人だけなの?」
ティオの声にフォースは振り向いた。腹を押さえていた妖精が、もう一人に手を引かれて立ち上がる。
「他に誰かいましたか?」
立ち上がった妖精は視線を落とし、服に付いた葉を払い出す。代わりにもう一人がティオと向き合った。
「私たちの前に数人、通り抜けようとした者がいました。無事に来ているかはまだ分からないのです」
「女の子が一人いたんだ」
ティオの言葉に、顔を見合わせた妖精がうなずき合う。
「リーシャだ」
フォースと話していた妖精が、その名前に注意を向けた。
「リーシャなら、あの人間の所に居るんじゃ」
若い妖精の言葉に、確かめてみよう、とうなずき、妖精はフォースに頭を下げる。
「では、私たちはこれで」
頭を上げて一瞬だけ微笑むと、妖精はそれぞれ身をひるがえし、木々の間へと消えていった。
「フォース、腹減ったよ」
間を空けずにティオが訴えてくる。
「了解。あまり遠くには行くなよ」
「分かってる!」
ティオは振り返りもせず、木々の中へと駈け込んでいった。
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