レイシャルメモリー 3-03


 リディアは手を伸ばし、その枝をほどきはじめた。フォースは苦しげな顔でそのリディアの腕を撫でる。リディアの言葉のせいか、枝や草がユラユラと揺れながら生長を迷っているように見えた。
「もう。じれったいわね」
 その声にギョッとして、リディアはまわりを見回した。側の木の枝に笑みを浮かべたリーシャが座っている。
「やっぱりあなたなの!」
 リディアの声に冷笑を浮かべると、リーシャは枝を飛び降り、側の地面にフワッと着地した。
「なんてことを!」
 きつい視線を向けたリディアにクスクスと笑ってみせると、リーシャはフォースに視線を移す。
「ほら、早くあなたのモノにしないと、彼女、また逃げちゃうんだから」
 その言葉にフォースが悲しげに顔をしかめた。
「嫌だ、離さない」
 フォースはリディアの肩口に顔を埋めた。鎖骨の辺りに唇を感じる。
 再びまわりの草木がざわざわと音を立てはじめた。獲物を見つけたヘビのようにフォースに鎌首を向ける。リディアは妖精を睨みつけると、フォースの頭を抱えるように抱きしめた。
「逃げないわ。私はフォースのモノよ。だから両方の手で抱きしめて。私を離さないで」
 リディアはその言葉で、フォースの手が迷いながらも背中に回るのを感じた。やはりフォースは術に抵抗してくれているのだ。思考も身体も、すべてを乗っ取られて動かされているわけではないことに安堵する。
 リーシャが不機嫌な表情になり、フォースの耳元に口を寄せる。
「さっさと降臨を解かないと、あんたがシャイア神に殺されるわよ?」
 フォースがシャイア神に殺されるくらいなら、私が代わりに殺されたい。でも今は、降臨されているこの身を守らなくてはならない。降臨を解くことで、すべてが水の泡になるのがリーシャの狙いなら、絶対その通りにはなりたくない。
「フォース、お願い、離さないで。強く抱きしめて。息ができないくらい」
 リディアはリーシャの言葉を無視して、フォースの耳元に必死でささやきかけた。リディア、と名前を呼ぶ声が胸元にかかり、その腕に力がこもる。
「何してるのよ、愛してるんでしょ? あんたが思ったようにしていいんだってばっ」
 リーシャが唇を噛み、胸の前で手のひらを向かい合わせた。その間に青白い光が膨れ上がってくる。
「他のこと、何も考えられないようにしてあげる」
 リーシャは手を突きだし、フォースをめがけてその光を飛ばした。近づいてくる光球を見て、リディアは思わずフォースを抱く手に力を込め、シャイア神に祈った。溢れてくる虹色の光が、リーシャの発した光球を包み込む。チッと舌打ちし、リーシャは木の上へと飛び上がりながら、再び手に光球を作り出す。

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