レイシャルメモリー 3-04


「リディア!」
 ティオの声が少し離れた場所から聞こえた。戻ってきたのだ。ティオがいると思うと、いくらかだが心強く感じる。
「ティオ! フォースが。どうやったら解けるのか教えて」
「術だね? あの妖精、捕まえなきゃ」
 ティオは小さな姿になり、勢いよく木に登っていく。リーシャは楽しげな目でそれを見つめ、手に届くか届かないかのところで隣の木に飛び移った。ティオは枝を伝って追いかけている。
 どんな術なのか、光球が飛んでくる回数は減るだろうが、それもリーシャの余裕なのだろう。届かない中空なら、邪魔されずにいくらでも攻撃ができるはずなのだ。
「リディ……、くっ」
 フォースの腕にさらに力がこもる。リディアも精一杯の力を込めてフォースを抱きしめた。
「フォース、離さないで。お願い……」
「強情ねぇ。最初はあの神官に抱かれるより、その男がいいんでしょ? 二度目からは神官だろうから同じようなモノだろうけど」
 可笑しそうに笑ったリーシャから飛んでくる光球を、再びシャイア神の力が包み込む。
「一度くらい抱かせてあげたら? ほら、あんたも。その女を抱けるのは今しかないんだから、あっ」
 リーシャの足にティオの手が届く。だが、簡単に振り払われて枝の上に落ちた。リーシャはムッとした顔をティオに向ける。
 リーシャが光球を作り、ティオに向けて飛ばそうと構えた時、辺りに強烈な光が満ちた。
 フォースの身体がビクッと跳ねる。リディアはしっかりと目を閉じ、フォースの頭を肩口に押しつけるように抱きしめた。リーシャは木から落ちたのか、悲鳴と共に枝が折れる音がしてくる。
 まぶたの裏側にさえも強い光が充満した。フォースが剣を合わせている時に馬車の中で見た光と酷似している。
 光が少しずつ収まってきて、それに合わせ、リディアはゆっくりと目を開いた。フォースの身体から力が抜けている。
「フォース?」
 リディアは慌てて腕を緩め、フォースの顔をのぞき込んだ。荒かった息がゆっくりと落ち着いていく。大きくなったティオが近づいてくるのが視界の端に入ってきた。
「リディア?」
「フォースが」
 ティオはフォースの顔をのぞき込み、ニッコリと笑う。
「大丈夫みたいだよ。さっきの光、術を解く術だもん。気を失っているだけ」
 何がどうだから大丈夫なのかを聞きたかったが、ティオは意に介せずにフォースを持ち上げ、リディアの手を引いて起こした。リディアの横座りの太股に頭が乗るように、ティオはフォースを寝かせる。
「リーシャは?」
「逃げたよ。さっきの妖精達が、捕まえてくるって言ってた」

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