レイシャルメモリー 3-05


 大きく戻ってしまった身体を小さくしながらティオが言った言葉に、リディアはホッと息をついた。緊張が解け、身体からも力が抜けていく。ティオの、ほら、という声に顔を上げると、フォースと話した三人の妖精が、リーシャを捕まえて戻って来たのが見えた。リディアは慌ててはだけていた服の胸元をかき寄せる。
 一人の若い妖精に後ろ手をとられたまま、リーシャは憎らしげな顔をフォースに向けた。
「どうして思い通りにならない、好きなようにしない? 人間のくせに」
 そのつぶやきで、リーシャが術でフォースを操ろうとしていたのは間違いないのだとリディアは思った。フォースと剣を合わせた妖精が、フッと息で笑う。
「よく見てみろ。抱きたい欲求も強いが、望んでいるのはそれだけじゃない。好きなようにしたから、結果がこれだ」
 リーシャは不機嫌そうに眉を寄せ、眼を細めてフォースを見た。その瞳が驚きで丸くなる。
「な、なによそれ……」
 リーシャの言葉に、リディアは顔を上げた。妖精が不安げにしているリディアに視線を向けてくる。
「戦士の欲求は巫女、あなた自身だ。身体も気持ちも取り巻く環境も、すべてが欲しいらしい」
 そう言って妖精は満面の笑みを浮かべる。リディアは顔が赤くなった気がして、恥ずかしさにうつむいた。
「あなたが拒否すれば、戦士も意地になったかもしれないが。あなたはただ守られているだけではない。しっかり戦士を支えておられる」
 リディアにとってフォースが支えと思ってくれていることほど、嬉しいことはなかった。そして支えることができているのなら尚のこと、少しでもしっかりした支えになってフォースに応えられるように、強くならなくてはいけないと思う。
 フォースのノドから呻くような息が漏れた。術が解けているとはいえ、フォースの様子が気にかかる。
「緊張の糸が切れたのだろう。意識も完全になくしてはいないからすぐに気が付く。ひどく疲れてはいるだろうが大丈夫だ」
 妖精の言葉に、リディアはホッと息をついた。声にはしなかったが、ありがとうございます、と妖精に気持ちを向ける。
 リディアは、通り過ぎた冷たい風を感じ、こんなところで寝ているのだ、フォースが寒いのではと気になった。それに気付いたのか、ティオが、ローブを取ってくるね、と若い妖精二人の間をすり抜け、馬車の方へと駆けていく。
 リーシャはティオの動きを視線で追うと、リディアに嘲笑を向けた。
「人間ってのは、鈍感な生きものなのね。襲われても怖くないなんて」
 その言葉で、フォースの髪を撫でていたリディアの指がビクッと跳ねた。リディアが思い起こした恐怖を感じ取ったのだろう、リーシャは驚いたようにその指を見つめる。

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