レイシャルメモリー 3-08


「分かってるわよ。でも、そんなことはどうでもよかったの。ただ彼を感じていれさえすれば。感じていれさえ……」
 涙も流さないリーシャを、リディアはただ心配げに見ていた。妖精たちも何も言えずに黙っている。
 ふと、足にくくり付けてある短剣が熱を帯びてきた。服の上からその場所に触れると、指の間から生地を通り抜け、虹色の光があふれ出す。
「短剣です。少し熱を持って光り出すことがあって」
 訝しげな妖精たちにリディアが答えると、妖精は納得したように何度もうなずき返してくる。
「それは我々の間で、意志を伝えし剣、と呼ばれるものです」
「意思を伝えし剣……」
 くり返した言葉に、妖精は笑みを浮かべた。
「戦士の剣を巫女が所有する間に、神の力が宿るといわれています。その剣を媒体に、戦士の気持ちも神に伝わる」
 ティオがローブを二枚持って戻ってきた。一枚渡されたリディアは、フォースにそっと掛ける。もう一枚はティオがリディアの肩に掛けた。
 この短剣で、フォースは神官を斬らなくてはならないのだ。それはとても悲しいことだとリディアは思う。神を持った人格があるとはいえ、フォースの信頼する人の父親なのだから。
 悲しい思いに目を伏せたリディアに、妖精が苦笑した。
「ええ。それで影を斬るのです。でも、傷は浅くてもかまわない。外皮を裂けばいいのですから」
「本当に?!」
「神が出て行く道ができれば、それでいいのです」
 リディアが嬉しさからついた大きな息に、フォースは小さくうめき声を上げた。うっすらと目を開く。
「フォース、大丈夫?」
 気付いて声をかけたリディアを、フォースはボーッと見つめていた。反応のないフォースに、リディアは心配げに顔をしかめる。
「フォース?」
「あっ。お、俺っ」
 状況を理解したのか、フォースは慌てて起きようとした。だが上体を起こそうとしただけで、ノドから苦しげな息が漏れる。
「身体はそんなにすぐ自由にはならんよ。このまま少し休んだ方がいい。それまで私たちがここにいる」
 妖精の言葉に、若い妖精が二人でうなずき合うのを見て、リディアはフォースの肩を抱えるようにすると、そっと頭を膝に戻した。
「俺、何やって……」
 後悔に歪めた顔で言ったフォースに、リディアは微笑みを浮かべて首を横に振った。
「フォースは悪くないわ。それに、私は無事よ」
 フォースは眉を寄せ、リディアの首元にあるキスの跡に手を伸ばしてくる。リディアはその手を取って自らの頬に当て、その甲を手のひらで包み込んだ。

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