レイシャルメモリー 3-09
「必要としてくれているって思えて、かえって嬉しかったくらいなんだから」
「ゴメン。怖かったろ」
それでも不安げなフォースに、リディアはもう一度首を横に振って見せる。
「でも、ちゃんと守ってくれたじゃない」
フォースはもう片方の手で、開いているリディアの手をそっと握った。
妖精がフォースの目を隠すように手をかぶせた。フォースの身体からスッと力が抜けていく。妖精を見上げたリディアに、苦笑が返ってきた。
「回復してもらわねばな。術で眠らせたよ。感情の操作はしていないが」
その言葉に、ティオが満面の笑みを浮かべる。
「いらないよ。フォースなら大丈夫」
そのニコニコとしたティオの表情に見入って、妖精はため息をついた。
「人とは、不思議な生きものだな」
ひとりごとなのかもしれない妖精の言葉に、うん、とティオがうなずく。
「俺らはさ、いつかは、待っていれば、って思うんだけど人間は違うよ。どうしよう、こうしよう、って、いつも悩んだり決めたりしてる」
「時の流れも世界も違うのだ。そこに生息する生きものの考え方が違うのも、ごく自然なことだ」
少し不機嫌そうに言った妖精に、隣にいた妖精が顔を向ける。
「だが、神のなさることだ。こうして一時でも同じ世界に生きたということは、そこにも何か意味があるのかもしれない」
その言葉に、年上に見える妖精がポンと肩を叩き、お前は強くなれるかもしれないな、とつぶやいた。
「神が解放されてもされなくても、結局ヴェーナとアルテーリアは離れていく運命にあるらしい」
その言葉に、リーシャはうつむいていた瞳を閉じた。風の音もしない静寂が訪れる。
「あ、ファルだ! ファルー?! こっちだよ!!」
ティオの元気な声が朝日が差し始めた空に向かって響く。リーシャさえ、ティオとその先にいるファルに視線を向けた。
手を振って走り出したティオをめがけてファルが降りてきた。ファルが頭にとまると取って返し、今度はリディアに向かって走ってくる。
「ジェイって人、だいぶよくなったみたいだって」
ホッとしたように表情を和らげたリディアに、ティオは真面目な顔になって耳元に口を寄せる。
「手紙もあるんだ。マクラーン城への侵入経路と時間」
小声で言われたが意味がない。まわりの妖精も表情を引き締めたのが、リディアの目に入った。
「目的地はマクラーン城ですか。では、ご一緒させていただこう。遠見鏡によると、召喚の術を使われているのがマクラーン城なのです。術の根源を絶たねばなりません」
召喚された黒い妖精が増えている中、リーシャがいるとはいえ、三人の妖精の存在が心強かった。
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