レイシャルメモリー 4-03
いつだったかユリアは、他人に自分の半分を任せて他人を半分背負うのが怖いと言っていた。それが自分もうなずけたのは、できあがっていない、自信のない自分を半分預けなくてはならないからだろう。
「私……、サーディ様を愛せる女になりたかったです。そうしたらきっと女性として、とても幸せになれたのに」
ユリアがため息のように言った言葉に、サーディは自然に笑みをこぼした。
「そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう」
サーディはその笑みをユリアに向けると、講堂裏へのドアに手を掛けた。
「あの」
振り返るとユリアは、心配げに眉を寄せている。
「結婚式で使う布を、サーディ様がおっしゃった通りに注文したのですが。よろしかったのでしょうか」
「ああ、ありがとう。彼らの式には一緒に出席しよう。それくらいは承諾してくれるよね?」
その言葉に微笑んで、ユリアは、はい、と返事をした。
サーディはドアを開け、もと来た廊下へと入った。足は自然と廊下をたどり、グレイのいる居間兼食堂へと向かっている。
もしかしたら泣きたくなるんじゃないかと思っていたが、そうでもないようだ。それなりに寂しいと思うし、悲しくもあるが、救いようのない辛さとは違う。かといってスッキリしたというわけでもないのだが。
もうだめだというよりも、まだ駄目だったのだと思う。もしもこの先改めて出逢うようなことがあれば、また始められそうな気がする。実際ユリアはシスターになってしまうのだから、出逢うこと自体が有り得ないのも分かってはいるが。
部屋へ戻ったが、グレイは顔も上げずに本を読んでいる。没頭しているのか無視しているのか分からないが、サーディにはどっちでもよかった。サーディも何も言わないままグレイの隣席に戻り、本を手に取る。
「泣く?」
いきなり向けられた問いに、サーディは吹き出しかけた。そういう問いを掛けてくるということは、振られると分かっていたに違いない。
「泣くかよ」
「俺は泣きたかったけど」
本に目を落とし、表情を変えないまま言ったグレイの言葉に、サーディは苦笑した。
「何かお前のは、標準から離れすぎてるんだけど」
グレイが日頃から好きだと言っているのはシャイア神だ。神を相手にした恋愛など、自分には考えられないとサーディは思う。グレイは、視点の定まらない目を文面に向けたままでいる。
「でも、振られてるんだ」
「シャイア様がどうやったらグレイを振ることができるんだよ」
サーディの言葉に、グレイは地下を指差した。
「初めてそこを見つけた時、俺の目の前でフォースにキスしたんだ」
「あ。あの時のあれって」
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