レイシャルメモリー 4-04
言われてみれば、地下から出て来る前にフォースとグレイが、けしかけられているとか期待とか宣戦布告とか、なんだか妙な会話をしていた。
「そりゃ、身体はリディアなんだけど。俺の存在なんて無いのと同然だったんだ。俺は一般人だ、ただの信者なんだって言われた気がして」
シャイア神だから、誰に対しても同じ愛情を持ってくれる、グレイはそう思っていたに違いない。でも、戦士としてのフォースの存在が突出してしまったのだ、シャイア神が特別に思っても不思議はない。
「振られる、っていうか、俺は疎外されるのが怖かったのかもしれない。今思うと、だから相手がシャイア様だったんだ。でも、それでは駄目なんだって直々に教えられてしまった」
グレイは気を落ち着かせるためか、目を閉じて大きくため息をついた。
「泣く?」
思わず少し前に向けられた質問を、グレイにそのまま返す。グレイは視線をサーディに向けると、微笑みを浮かべた。
「まぁ、失恋仲間ができたからな。もしかしたらシャイア様が、少しは気に掛けてくださったのかもしれない。感謝します」
「感謝すんな!」
サーディは祈りの体勢を取ったグレイに向かって、声を大きくした。
「まったく。真面目に話してると思えばコレだ」
「いや、真面目だから。これでも」
満面の笑みを浮かべたグレイに、サーディは自然に笑みを返した。
***
馬車の中、進行方向に向かった席に、フォースはリディアと並んで座っていた。向かい側には、一番年上で立場的にも上なのだろう妖精が、腰を落ち着けている。ティオは御者台に、リーシャを含めた残り三人の妖精は上空を移動しているはずだ。
眠たそうにしていたリディアの頭が、肩のプレートにコツンとぶつかった。そのまま一度大きく息をつくと、身体を預けてくる。
フォースはその寝顔に見入った。リディアの安心しきった表情は、ほんの少し微笑んでいるようにも見える。規則的に聞こえる穏やかな寝息も、優しく気持ちを撫でていく。
リーシャの術にかかり、リディアを襲った。術で解放された熱情は元々あったのに、今はそれがひどく邪魔な感情としてフォースの中に残っている。
自分が何をしたのか、その感触さえも克明に思い出せてしまう。おかげで罪悪感や嫌悪感を押さえるため、必死に気持ちを落ち着けようと努力し続けなくてはならない。
何より安心できるのは、リディアの反応だった。何一つ責めることなく、すべてを許し、受け止めてくれているのだ。ただ守る対象だったリディアが、いつの間にかここまで強くなっている。
支えてくれている。二人で前を向ける。そんな今の状態が嬉しいとフォースは思う。
だが、リディアを本当に手に入れようと思ったら、やらなくてはならないことがひとつだけ残っている。それこそがシェイド神の解放だ。
4-05へ