レイシャルメモリー 4-05
フォースを釣るためのエサのようにリディアを使ったシャイア神のやり方は、フォースにとってはひどく腹が立つ行為だった。だが今は、フォース自身でさえ間違いだと言い切れなくなってしまっている。
間違っていようがいなかろうが、ここまできたら後はやるしかないのだとフォースは思う。
馬車の中に少しずつ日がさしてきた。この日が落ちる前には、マクラーンに着くだろう。その前に少しでも休まなくてはとフォースは思っていた。だが、道の側に家が少しずつ見えてきたことで、高まる緊張感をもてあましていた。
向かい側に座る妖精が、窓の外に視線を向けた。そこに若い妖精が一人顔をのぞかせる。
「空から召喚された妖精を見ていますと、だいたいですが出現地点の見当が付きました。城の側なのですが、出入り口か何かあると思われます」
「では、私たちはそこから術の根源をたどろう」
はい、と返事をして、若い妖精は言葉をつなぐ。
「街の中も、あまり人通りはありません。このまま馬車で入っても、特に支障は無さそうです」
馬車の妖精がうなずいたのを見て、若い妖精は上空へと姿を消した。
「出現地点近辺までは、ご一緒させていただきます。たぶん目指す場所はそう変わらないはずです。そこでまた会いましょう」
フォースは妖精に視線を向けられ、同意の意味を込めてうなずいて見せる。
ひとくちに街と言っても、マクラーンは広い。城の入り口まで馬車でも四半日はかかる。最悪徒歩を考えていたが、馬車で行けるに越したことはない。
街道から続く公道をまっすぐ進むと、神殿を三つ越えなくてはならない。だが、徒歩で越えるよりははるかに安全だし、召喚された妖精が出てきたとしても、ある程度は振り切ることができる。
そしてフォースにとって、妖精の存在が心強かった。目的は微妙に違うが、城の側までは一緒に行動できる。少なくともそこに着くまでは、召喚された妖精がいても、一人ですべて相手にする必要がないのだ。
「召喚されてしまった仲間に、術が効かないのは辛いな」
正面に座っている妖精がつぶやく。
「召喚された数だけ、斬らねばならない」
その言葉に、フォースは何も返せなかった。
森で自分を守ってくれている時、出てきた妖精に術を無効にする術を向けてはみたが、無駄だったと言っていた。召喚が終わってしまうと、この世界で生きものとして成り立ってしまうのだから、既に術の範囲を超えている。当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
妖精は長寿であるだけに、ほとんどすべての仲間を把握している。誰もが知り合いなのだから、誰が召喚されていても辛い思いをしてしまうだろう。
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