レイシャルメモリー 1-03


 謁見の間も、幽閉されていた塔も、クロフォードの私室も、知っているのは城の南側から中心部にかけての部分だ。分かるところに行き着くまでは、アルトスの後ろをついていくしかない。
 神殿への経路が分かれば、アルトスと別れて二人で行くつもりでいた。シェイド神の力を使って攻撃されると、シャイア神の守護を受けていない人間は無力に近い。どんなに剣の腕が立つアルトスでも、もし操られることがあれば逆に強力な敵になってしまうのだ。
 見張りの騎士にアルトスが駆け寄った。神殿に着くまでに、というアルトスの声が聞こえてくる。レクタードがいる場所の確認を取るようだ。
 命令を受けた騎士は顔色を変え、慌てふためいて城の中央の方向へ走っていった。少し申し訳ないと思ったが、レクタードを巻き込むわけにはいかない。
「巫女様には感謝しています。命を狙った私を、信じてくださった」
 また三人だけに戻った状況で、アルトスはひとりごとのように口にした。歩を止めずに言ったアルトスの言葉に、フォースは苦笑を浮かべてリディアを見る。どう返事をしていいか迷ったのだろう、リディアは不安げな顔でフォースを見上げてきた。
「こうして陛下のご家族に仕えていられるのも、あの時レイクス様を預けてくださったあなたのおかげです」
 フッと空気で笑ったフォースに、アルトスは一瞬だけ不機嫌な視線を寄こした。リディアが笑みを向けたのが目に入ったのか、アルトスは慌てて視線を前に戻す。
「フォースの命を救ってくださって私も感謝しています。こうしてまた一緒にいられるのは、あなたのおかげです」
 リディアは控え目な声でアルトスの後ろ姿に声を掛けた。
「あ、有り難きお言葉を」
 アルトスが焦っているのを、フォースは始めて目にした気がした。リディアを見方として受け入れてくれていると思うと、妙な安心感が湧いてくる。
 不意にシェイド神の攻撃が身体に伝わってきた。腕を取っていたリディアの手に、ほんの少し力がこもる。虹色の光が二人を包み込む。
 光に気付いたアルトスが振り返ったが、フォースは来ないようにと制し、変わらず足を進めた。アルトスは一瞬足を止めたが、また前を向いて歩き出す。
 ふと見覚えのある場所に出た。ここからなら案内が無くても神殿に行けると思う。だが、まだレクタードがどこにいるのか分かっていない。連絡が来れば後は神殿に乗り込むだけなのだが。
 フォースは改めてまわりを見回した。マクラーン城が懐かしいなどと思うのは、ここも自分の場所として認識しているからなのだろう。

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