レイシャルメモリー 1-04


 ここに存在するすべての人たちも守りたい。このままマクヴァルの思うようにさせていたのでは、また身体を崩されてしまう者も出てくるかもしれないのだ。
 神の力だけが存在していても、この状態は国として、人としての幸せだとは言えないだろう。マクヴァルが存続させようという神の力があっても、神が存在している世界とは違う。
 前方から二人、駆け寄ってくるのが見えだした。一人は鎧姿、もう一人はレクタードだ。
「フォース!」
 名を呼ばれて一瞬ギョッとしたが、今レイクスと呼ばれてしまっては大変なことになるのだから、逆にそれでいいのだと気付く。
「レクタード、無事でよかった」
「フォース、来てくれて嬉しいよ」
 言葉と裏腹に、レクタードの表情が引きつっている。訝しげな顔を向けると、レクタードは慌てて口を開いた。
「地下墓地の祭壇陰から怪物が出現しているんだ」
 フォースが眉を寄せたのを見て、レクタードはうなずいてみせる。
「俺が地下から出た時には既に三体目が。あそこには何かがある」
 フォースは思わずアルトスと顔を見合わせた。
「そんなに出現することなど、今までは無かった」
「ここに居るのがバレたのかもしれないな」
 フォースはアルトスにそう言うと、リディアと向き合った。
「急ごう」
 うなずいたリディアと、地下墓地へと向かう。すぐ後ろにいるティオに、気を付けろ、と声を掛ける。ある程度の距離を置いて、アルトスも付いてくるのが足音で分かった。
 神の力があるうちは、溶かされてしまう可能性もあるので一緒に来るのは避けた方がいいと思う。だが、どうせ簡単に言うことを聞く男ではないし、そんなことを話し合っている暇もない。フォースは、ただひたすら先を急いだ。
 神殿に入ると、年老いた神官と出くわした。その神官は顔色を変えてフォースに詰め寄ってくる。
「あなたが部屋を出られたからシェイド神がお怒りになったのだ!」
 抗議するその口元が少し腫れ、出血している。マクヴァルがやったのか、召喚された妖精がやったのか。
「俺が最初から幽閉されていないことくらいシェイド神はご存じだ。怒っているとしたらマクヴァル自身だ、シェイド神じゃない!」
 呆然と目を見開いている神官の横を通り、地下墓地への階段を降りる。後ろでティオが神官に、ずっと騙されていたんだね、と声を掛けたのが聞こえた。
 上から見下ろすと、地下墓地には黒い影が溢れていた。リディアから離れるなとティオに視線で確認を取る。ティオは分かっているとばかりにうなずいた。

1-05へ


前ページ 章目次 シリーズ目次 TOP