レイシャルメモリー 1-05


 こっちに気付いた妖精が階段を上がってくる。フォースは高さを利用して妖精を目がけて飛んだ。捕まえようと伸ばしてくる腕を斬り裂きつつ肩に着地すると、脳天から剣を突き立てる。
 動きを止めた妖精の身体が、階段下側へとひっくり返り、駆け寄ってきた細身の黒い妖精を落下する勢いで両断した。後ろに落ちた頭部を振り返りざまに薙ぎながら、リディアとティオ、アルトスを確認する。
 ティオはリディアを肩に座らせ、アルトスは石の手すりを飛び越えて地下墓地に降り立った。階段の上からは数人の騎士がなだれ込んでくる。
「深入りはするな!」
 前に向き直ったフォースの耳に、アルトスの声が響いた。
 ここは任せてしまって大丈夫だと判断し、フォースは数体の妖精を斬り捨てながら祭壇へ駆け寄った。リディアを肩に乗せたティオの足音がついてくる。フォースの目の前で、シェイド神の像が置かれている台の裏側から、ヌッと黒い手が出てきて角に掛かった。
 台の裏側に空間があることを悟ったフォースは、少し間を取って台の裏側へと回り込んだ。黒い妖精は、奥にある階段から地下墓地の床へと足を踏み出してくる。フォースは胸にまっすぐ剣を突き立てると、頭頂部から剣が抜けるように剣身で切り上げた。倒れた妖精の後ろに階段が見える。
 ティオはその階段をのぞき込み、フォースと一瞬目を合わせると、分かった、とうなずいた。言葉にしなくても、ティオは考えを読み取ってくれる。少しでも早くマクヴァルの元にたどり着きたい今、それはとても有り難かった。
 階段に足を踏み入れる。少し下って後ろを確認すると、階段には高さがないので、リディアを下ろしてその後ろをティオが歩いてくる。ティオのさらに後方、台の入り口あたりに、スチールグレイの鎧の背中が見えた。妖精が階段へ侵入するのを、アルトスが防いでくれているのだ。
 すぐに石でできた床が見え、その先が広くなっていると分かった。そこからまた召喚された妖精が階段に入ってくる。フォースはリディアとティオがいる場所と間を取るために、何段か階段を駆け下りた。
 突き出してきた手を右に回避しながら妖精に身体を寄せ、手を引く隙に乗じて突きを出す。妖精はもう片方の手で剣を払い、もう一度手を突き出してくる。その手に黒く光る短剣を見つけ、フォースは鎧で受けようとした身体を無理矢理引いた。背中が壁にぶつかる。
 鏡に封じる。そう言ったゼインが手にしていた短剣と似ていた。少なくとも材質は同じだろう。はたして本物なのか、鏡も存在しているのかは分からないが、呪術の力を持った短剣である可能性がある以上、傷を受けるわけにはいかない。

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