レイシャルメモリー 1-06


 壁を背にしたフォースに向かい、妖精が短剣を突き出してきた。攻撃から間があったせいで、フォースは余裕を持ってギリギリまで待ち、腕をくぐり抜けて妖精の後ろに回る。壁に当たって砕け散った欠片を視界の端に見ながら、フォースは妖精の頭上に剣身を振り下ろした。
 石室に目をやると、黒い妖精たちが向かってくるその後ろに、冷笑を浮かべたマクヴァルが見えた。手を伸ばした図形の中心に、妖精が新たに召喚されている。
 顔を上げ、目を見張ったマクヴァルと視線が合った。後ろからはアルトスの鎧の音が駆け寄ってきたのが聞こえる。
「あそこに行くんだね?」
 ティオが言葉で確認を取りながら、リディアを肩に乗せようと手を伸ばし、慌てて引いた。リディアの瞳が、いつの間にか緑色に輝いている。
「シャイア様は私たちを守ってくださる。だから怖くないわ、大丈夫。お願い」
 リディアがリディアの声で、そう口にした。ティオは真面目な顔で大きくうなずくと、リディアを抱き上げて肩に乗せる。リディアの瞳の緑が深くなっていく。
「行きましょう」
 ――動けなくすればいい――
 リディアの言葉とシャイア神の思考がフォースの中で被った。妖精のことを言っていることは意識が伝わってきた。だが、治せるから殺すなということか、戦力だけ削れということか。そこが引っかかったが、返事を期待して聞き返している暇はない。
 手を差し出して突っ込んできた妖精を胴体で両断し、フォースは石でできた空間に足を踏み出した。
 そこに黒い球体が飛んできた。斬るべきかと一瞬悩んだところに虹色の光がぶつかる。何度か収縮を繰り返したのち、黒い物体は虹色の光に押し包まれて消えた。
 向かってくる妖精に身体を向けたその視界の隅に、眉を寄せた厳しい表情のマクヴァルが入ってくる。もう一度差し出されたその手に黒い影が膨れ上がり、球体がシェイド神の力だったのだと理解した。
 理解したところで、自分の力では神の力など、対抗のしようがない。神の力はシャイア神に任せ、フォースは目の前の妖精を倒すことにだけ集中した。
 黒い妖精の数は多いが、フォースが前に出たことで、アルトスも部屋の中、フォースの後ろへ入ってきたようだ。しかも、シャイア神がその力を使って中空にいるため、ティオも参戦している。妖精の数は時間が経つにつれ、確実に減っていた。
 その中を、シェイド神の闇とシャイア神の虹色の光が乱舞し、交錯している。
「神を排除しようなど!」
「お前は神じゃない!」
 悔し紛れか、そう声を荒げたマクヴァルに、フォースも叫び返した。
 マクヴァルが産みだした闇が、手の先から離れないうちに虹色の光で包まれる。マクヴァルは身をひるがえすと、対角にある壁の隙間へと入っていった。

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